独立前後の仕事(破産・債務整理事件)について

令和2年8月3日、新型コロナの影響で406社が倒産したとのニュースがありました。
思っていたよりも少ないなという印象ですが、この数字は、持続化給付金、雇用調整助成金や、金融機関の無利息・無担保融資など、様々な施策に下支えさせられたものなのでしょう。
新型コロナの影響は、まだまだ続く様子なので、これから、破産するか否か悩む人も増えていくでしょう。

独立に至るまで

破産のニュースを聞くと、独立前後の自分自身の仕事を思い返します。
弁護士になってからお世話になっていた法律事務所で、3年半がたった頃、徐々に個人事件が増えてきました。
通常、弁護士は、司法研修所を卒業後、法律事務所に就職し、そこで、民事事件、刑事事件を問わず様々な事件を経験し、スキルを磨きます。
ある程度スキルが身につき、自分自身の力で仕事をとれるようになってくると、その法律事務所で、パートナー弁護士(経費分担をする経営者的立場の弁護士)となるか、独立するかを考えることになります。

私が在籍していた事務所の先輩弁護士は、皆、独立していました。
私自身も、自分で仕事をとれるようになったら、独立しようと考えていました。
そのため、事務所で、丸4年の実務経験をへて、平成20年11月に独立し、「佐藤嘉寅法律事務所」を開設しました。


独立当初の仕事の特徴

独立当初の仕事は、破産事件、個人再生事件、過払い金返還請求事件、闇金事件を多く扱っていました。
というのも、平成20年当時、高金利の多重債務で苦しむ債務者の数が、単純に多かったこと、また、過払い金返還請求で問題となっていた消費者金融業者からの貸金業法のみなし弁済(利息制限法の制限超過利息であっても,みなし弁済の要件を満たす限り,その利息の受領が認めれる)の主張について、これを認めないとする最高裁判所の判断が次々と示され、後述する大量広告宣伝により、世の中に「過払い」というものが知られるようになったからです。

最高裁判所平成18年1月13日判決(平成16年(受)第1518号事件)
最高裁判所平成19年7月13日判決(平成17年(受)第1970号事件)
最高裁判所平成19年7月13日判決(平成18年(受)第276号事件)

弁護士会が運営する法律相談センターには、多数の相談者が、相談にこられ、相談担当弁護士として執務すると、午前3コマ、午後4コマの相談枠は、ほぼいっぱいという状態で、相談担当して参加すると、一回で、2件受任するというのが当たり前の状態でした。

そのため、独立当時の仕事は、前記の事件が中心となり、それ以外に、親しくしていた先輩弁護士に、独立のご祝儀的に、仕事を回してもらったり、事件を共同受任させていただいりしていました。
そんな先輩弁護士が、後輩弁護士を助けてあげる牧歌的な時代が、弁護士の世界にもありました。諸先輩方ありがとうございました。

大量広告宣伝の時代と債務整理事件特化型事務所の隆盛

しかし、その頃から、債務整理事件特化型の大量宣伝、大量集客の法律事務所、司法書士事務所が、多く現れ始めました。
電車に乗れば、宣伝広告が、ラジオを聞いても、法律事務所の案内が、テレビを見ても、コマーシャルが流れることが増えてきました。
これは、そのうち法律相談センターにくる相談者は激減するだろうな、と思っていましたが、案の定、激減しました。

そんな債務整理特化型事務所に抱いていた私の感想は、

なんかかっこ悪い…

先達が、苦労してつかみ取ってきた判例を用いて、財力のある消費者金融から、容易に回収できる事件を、莫大な費用をかけて広告宣伝して集客し、大量に受任する。他人の尻馬にのって出来る限り稼ごうとする、その姿勢が嫌でした。

弁護士自身が、最初の相談から、最後まで面倒を見るのであれば許せますが、法曹資格のない事務員に作業の多くを任せ、分業制にしているのも嫌でした。

平成18年12月、貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律により、総量規制が導入され、また、出資法の上限金利が、利息制限法と同内容となり、いわゆるグレーゾーン金利が撤廃、これが平成22年6月18日から施行されました。
そのため、同日以降に借り入れを開始した場合、過払い金は発生しなくなりました。
10年の経過により、過払い金は、消滅時効が成立しているでしょう。
大量の広告宣伝により、過払いが発生し、それを回収したいとお考えになる人は、すでに相談をしたのでしょう。
今では、めっきり債務整理特化型事務所というのはみなくなりました。
過払い金返還請求というのが、ある程度、システマティックにやれるというだけで、弁護士が扱うような他の事件は、どれもが唯一無二で、事務員任せというわけにはいきません。

一時、残業代請求が、債務整理事件の減少後、受け皿になるのではないか、と言われていた時期もありましたが、残業代請求も、集める資料は様々で、依頼者の労務体系も異なります。また、残業代請求をする相手方の会社も、当時の消費者金融のように財務力が健全といえるところばかりではありません。過払い金請求と同じようにはいかないのは、当たり前です。
訴訟すれば、ほぼ間違いなく勝てて、金員の回収ができる、そんな異常な状態が、頻繁に起こるわけはないのです。

弁護士の本来あるべき姿に戻り、狂騒の時代が終わりました。

弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所の破産

そんな狂騒の時代の終焉を印象付ける事件が、つい先日、起きました。
皆さんご存知の弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所の破産申立事件です。
報道によれば、依頼者に返還されるはずだった過払い金が返還されず、31億円が不正に流用されたとのこと。
預り金の流用額も、負債50億円というのも、過去に類例をみない事件でしょう。

過払い金が入ってくるのを楽しみにしていた依頼者は、大変お気の毒です。
複数の消費者金融から借りていた場合、一部の消費者金融からは過払い金を回収し、負債が残る消費者金融に一括支払いして最終的に解決するということはよくありますが、東京ミネルヴァの依頼者は、借金が残っている人もいるかもしれません。

報道を聞いて思いました。

やってくれたなぁ…。まじで…。

昨今の弁護士に対する社会的信用の低下。
それを地の底まで、瞬時に叩きおとすような事をしでかした輩に憤りを禁じえません。良識ある普通の弁護士は、皆そう感じているでしょう。

弁護士と言えば、三百代言と揶揄されることもありますが、それでも、社会的地位のある尊敬されるべき職業でした。
報道によると、本年度の司法試験の受験予定者は、4100人とのことですが、私が受験していたころは、出願数は、4万人から5万人、最終合格者は、1000人から1500人、合格率は、3%に満たないという、日本で最難関の試験でした。
現在の司法試験は、従来の司法試験と類似の予備試験があるものの、法科大学院修了を前提としたものとなっています。
司法試験の前に、法科大学院で学ばないといけない以上、単純比較は、もちろんできませんが、さすがに、10倍の差は、開きすぎではありませんか?

平成16年、法科大学院が始まり、当初の志願者は、72800人、その後、数年間は、4万人前後をキープしていたものの、徐々に減少し、令和1年は、9117人となっています。
受験者数は、平成23年の8765人をピークに減少を続けています。
弁護士業の職業としての魅力、法曹に対する期待が、減じている証左でしょう。

参考 日本弁護士連合会 弁護士白書
法科大学院における志願者・入学者の状況
司法試験合格者の状況

それでも、難関を超えて合格した者たちは、人の役に立ちたいとの思いと、誇りに満ちていたと思います。
しかし、現在のこの状況に、弁護士として矜持を保つのも困難、暗澹たる気持ちです。

司法過疎地にも、あまねく司法の恩恵を及ぼすべく始まった司法制度改革による弁護士増員。
社会人経験者も司法の一員となりやすくし、多様な人材を法曹界に呼び込もうとするための法科大学院の創設。
理想に満ちており、これを否定することなどできません。
しかし、同時に、広告宣伝の解禁、そして、狂騒の過払いブーム
これらが絶妙にマッチして、今の状況を作り出したと考えざるを得ません。

正しい宣伝を!!

武士は食わねど高楊枝と言いますが、それも誇りがあってこそ。
同様に、誇りを失っては、弁護士の仕事はできません。

昔であれば、弁護士は、広告宣伝などしなくても、弁護士会や裁判所からの紹介案件と、知人友人からの紹介案件だけで十分に食べていけました。
しかし、広告宣伝の上手い弁護士だけが仕事を獲得し、相談者を食い物にする現実を見れば、市井の弁護士も、情報発信をせざるを得ません。
弁護士としての誇りを保ちながら、情報発信していくこと。その調整は、とても難しいです。

独立して事務所経営をしてから、何度、思ったことか。
「こんなはずじゃなかった。営業したくないから、弁護士になったのになぁ。」

しかし、後悔ばかりもしていられません。
そういう時代なわけですから。
そんな葛藤を抱えていますが、ブログという手段は良いですね。

実際に自分が出来ることを、平易に伝えることができます。

自己破産、個人再生、法人破産については、過去の経験から対応可能です。
事務員任せにすることなく、最初の相談から、申立て、終結まで、私自身が導きます。
もし相談があれば、私までご連絡ください。

破産についてよくある質問をまとめましたので、ご興味があれば、お読みください。


破産について、よくないイメージを持たれている方が多いですが、一文無しになるわけではありません。
現金は、99万円までは自由財産ですし、預貯金も合計20万円まで、保険も解約返戻金合計20万円まで、自動車も査定額が20万円以下であれば、換価処分することなく、保持することができます。
破産は、国が破産法という形で、公的に認めた、経済的に失敗した人にやり直すチャンスを与える制度です。
精一杯頑張って、どうしても無理ということになったら、利用しましょう。

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