【賃貸借の修繕義務と修繕権限】配管からの水漏れと急迫性を理由とした賃借人の修繕権限

僕の借りているマンションで、水漏れが起きたんです。階下の人に迷惑をかけちゃうかもしれないから、すごく焦りました。大家さんに、すぐに連絡したんですけど、連絡がとれなくて、結局、自分で、水道配管の工事業者を呼んで直してもらいました。あとでかかった費用を、大家さんに請求したら、すぐに払ってくれたから良かったけど、勝手にやったとして、大家さんと揉めてしまうケースもあるんでしょうか?

あなたのようなケースでは、民法608条に基づいて、大家さんに対して、費用償還請求ができると定められているから、支払ってもらえたはずだけど、旧民法では、勝手に修繕をしてもよい場合の明確なルールが条文上は、はっきりと決まっていなかったら、揉めるケースもあっただろうね。
改正法607条の2では、①賃借人が賃貸人に修繕してほしいと通知した場合、または、賃貸人が修繕の必要があると知ったのに、放置している場合に、賃借人に修繕権限を認めたんだ。それに、あなたのケースだと、②急迫の事情があるとして、修繕権限が認められるだろうね。

賃貸人が修繕義務を負わない場合と賃借人の修繕権限を明記しました!

修繕義務については、賃貸人が負うのが原則ですが、賃借人の責任で、賃借物を修繕しなければならなくなったときまで、賃貸人が修繕義務を負うのかについて、旧法ではっきりとした規定はありませんでした。
そこで、改正法では、賃借人の責任で、賃借物を修繕しなければならなくなったときは、賃貸人は修繕義務を負わないことを明記しています(606条1項)。

他方、旧法では、賃借人が修繕権限を有するのか明確な規定がありませんでした。
賃貸人が修繕義務を負うことを前提に、一定の要件のもとに、賃借人も修繕権限を有することを、改正法は、条文上明記しています(607条の2)。

(賃貸人による修繕等)
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
(賃借人による修繕)
第六百七条の二 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。

例えば、マンションを借りている賃借人は、エアコンなどの設備が壊れた場合には直ちに修理して欲しいのが当然です。賃貸人には、賃借人が使用収益できるように修繕する義務がありますが、賃借人が誤って壊してしまった場合まで、修繕をしなければならないとするのは酷です。
また、賃貸人の知らぬ間に、高額なエアコンに買い替えられて、その金額を請求されて支払わなければならないとするのも賃貸人に酷です。
他方、賃貸人に修理をお願いしたのに、いつまでたっても直してくれないとなったら、賃借人に酷です。
そこで、改正法では、マンションの所有者である賃貸人の利益を考慮しつう、賃借人が修繕できる場合のルールを定めることで、両者の利益衡量を図っています。

賃借人から賃貸人に対する修繕が必要である旨の通知をしてから相当期間が経過

まず、賃借人は、賃貸人に対し、修繕が必要である旨通知することが必要とされました。そして、通知してから相当期間が経過すれば、修繕権限が認められます。

通知の方法は特に定められていないので、口頭、電話、メール、普通郵便、内容証明郵便による通知なんでも良いことになります。
賃貸人と賃借人との関係ですから、内容証明郵便による通知書を作成するほどのことではないですが、万一、紛争になった場合、口頭、電話では、言った言わないの争いになることも考えられます。少なくとも、メールするなり、管理会社の人に立ち会ってもらうなりした方が良いでしょう。

この点、管理会社は、賃貸人の代理人ではありませんから、賃貸人にではなく、管理会社に伝えただけの場合、賃貸人に通知したと評価されるのかは、問題となるでしょう。

賃貸人が修繕が必要なことを知ってから相当期間が経過

賃借人が通知していなくても、賃貸人が修繕が必要であることを知っており、相当期間が経過すれば、修繕権限は認められます。

急迫の事情がある

先にあげた水漏れ事故のように急迫の事情があれば、賃借人は修繕権限が認められます。
万一、後に紛争となった場合、急迫性の立証責任は、賃借人にありますから、故障個所の写真、動画などは撮影しておいた方が良いでしょう。

任意規定(当事者が自由に決められる)

607条の2は、任意規定とされていますから、当事者間で、これと異なる合意をすることも可能です。
例えば、次のような条項が考えられます。

(1)設備が故障した場合、賃借人は賃貸人に、書面により、速やかに通知しなければならない。
(2)賃借人が前項の通知を怠り、または、遅延した場合、設備の故障により生じた損害一切について、賃貸人は何らの責任を負わない。

少し、極端な例ではありますが、当事者間の合意があれば有効と考えられます。
ただ、賃借人が、一般人であれば、消費者契約法10条により、無効となる場合もあるでしょう。
消費者契約法は、消費者が事業者と契約をするときに、両者の間の情報の量・質の格差が著しいため、消費者の利益を守るために定められたルールであり、信義誠実の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する不当な契約条項を無効としているからです。
但し、消費者契約法は、あくまでも一般人との契約なので、法人がオフィスの賃貸借契約をする場合などは、当然適用されません。

賃貸借契約書に限らず、契約書は、きちんと確認しましょう。

消費者契約法(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

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