【賃借物の一部滅失と賃料の減額】土砂災害による賃借家屋の利用不能と賃料の当然減額

先月の大雨の土砂災害で、借家の一部が土砂に埋まり、いまだに使えません。賃料の減額が請求できると聞きましたが、大家さんは応じてくれるのでしょうか?

賃借物の「一部滅失」と評価ができて、使用できないことが賃借人の責めに帰することができない事由によるときは、賃料は、使用収益できない部分の割合に応じて、当然に減額されます。
旧法では、賃料の減額が請求できるとされていて、借家人が、減額請求をしないければなりませんでしたが、使用できないなら賃料も発生しないのが筋だから、改正法では、当然減額にあらためられました。
だから大家さんが承諾の有無にかかわらず、減額した賃料を支払えば良いです。ただ、使用収益ができなくなった部分と賃料額の割合で、後日、紛争になることはあるかもしれないので、よく大家さんと話し合って、賃料をいくら減額するのかを決めてください。

賃料は「減額できる」から「当然減額」へ

相談者のように、借家の一部が利用できくなるケースというのはありますが、それが自然災害などの理由で、賃借人の責任ではない場合、その借家の一部が利用できないのに、賃料を変わらず、支払わないといけないのは、危険負担の法理からも、常識的に考えてもおかしいです。
そのため、旧法は、賃借物の一部が、賃借人の過失によらないで滅失した場合、賃借人が、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額請求できることを認めていました(旧法611条)。
但し、賃借人から、減額の請求ができるというだけで、当然に減額されるわけではなく、賃貸人が、そのまま賃料を受け取ることも可能でした。

これは、賃借物の使用収益の対価が、賃料であることを考えると理屈にあいません。
そこで、改正法では、「減額できる」から「当然減額」に変わりました。

賃借人の責めに帰することができない事由がある場合に限る

もっとも、賃借物の一部滅失が、賃借人の責任によるものである場合まで、賃料を減額するのは、賃貸人に酷です。
そこで、改正法は、賃借人の責めに帰することができない事由がある場合にのみ、賃料の一部減額を認めています。こういった理屈は、当事者双方に帰責事由がない場合、債務者主義を原則とし、債権者主義を例外とした、危険負担の考え方と類似しています。
賃借物の使用収益を請求する賃借人(債権者)が、賃料支払い債務を免れ、賃借物を使用収益させる義務を負う賃貸人(債務者)の賃料請求権が、消滅するのが原則であり、債権者の責めに帰する事由がある場合は、賃料の支払いを免れないことになるからです。

立証責任は賃借人にあり

なお、賃借人の責めに帰することができない事由があるか否かは、賃貸人には分からないので、賃借人に立証責任があるとされています。
相談者の例であれば、自然災害によるものであるため、立証は容易でしょう。

契約解除の場合

帰責事由不要

旧法では、賃借物の一部滅失の場合、賃借人の過失によらないで滅失した場合のみ、契約解除できると考えられていました(旧法611条2項)。
賃借人に一部滅失の責任があるのだから、契約解除できないとするのも、自然な感じもしますね。
しかし、賃借物が、一部利用できず、その結果、賃貸した目的を達成できない場合まで、契約解除できないとするのは、賃借人に酷であり、一部滅失の責任については、損害賠償の問題として考えれば足ります。
そこで、改正法は、賃借人に帰責事由がある場合であっても、「残存する部分のみでは賃借人が賃借をする目的を達することができないときは」契約を解除できるとしました(改正法611条2項)。

対象の拡大

また、旧法では、「滅失した」場合に、条文上限られているように読めますが、改正法では、「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」と定め、条文上、対象を拡大しています。

ただ、その他の事由に何が含まれるかは、今後の実務の集積によることになるでしょう。

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第六百十一条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
とら先生ぷちコラム
賃借物の一部滅失の場合、賃借物の使用収益の対価として、賃料がある以上、使用収益させる義務が、一部履行不能となっている以上、賃料が当然減額となるというのは、危険負担の債務者主義からは、当然ともいえます。

ただ、この規定は、任意規定のため、当事者間の賃貸借契約で、これとは別の合意をすることも可能です。
例えば、次のような合意です。賃貸人は「甲」、賃借人は「乙」です。
(合意条項例)
(1)乙は、自然災害等その他の事由により、賃借物の一部が利用できなくなった場合でも、甲に対する賃料全部の負担を免れることはできない。
(2)前項の理由により、乙が契約の解除を求める場合(賃借物の一部のみでは、第〇条記載の賃貸借の目的が達成できない場合も含む)、乙は甲に対し、賃料3か月分を支払うことで、即時に解約できる。
もっとも、このような合意を、一般人とした場合は、消費者契約法10条により、当該規定が無効主張される可能性がありますのでご注意ください。

 

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