【危険負担】絵画を保管していた倉庫が隣家からの延焼で焼失した場合は債務者主義? or 債権者主義?

今回の改正で、「危険負担」についても大きく改正がされました。
もっとも、とてもシンプルにまとめられているので、旧法下での錯綜した危険負担を念頭におく必要はなくなりました(旧法534条、535条の削除)。

危険負担とはどちらが責任を負うか

危険負担とは、当事者双方に責任がないにもかかわらず、履行が不能になった場合に債権者と債務者のどちらが責任を負うかという問題です。

例えば、債務者(ギャラリー)と債権者(顧客)が、展覧会で展示してあった絵画の売買契約をし、令和2年8月5日までに債権者(顧客)指定の店舗に納品する合意をしていたところ、同月1日、絵画を保管していた倉庫が、隣家からの延焼で焼失した場合、当事者双方に帰責事由はなく、履行不能となります。
この場合、絵画の納品を受けられなかった債権者(顧客)が、代金を支払う必要があるとの考えが、債権者主義であり、絵画を受け取れなかった以上、代金を支払う義務も消滅して、債務者(ギャラリー)は、代金の支払いを受けられない、というのが債務者主義です。

そして、この危険負担について、旧法は、目的物が特定物か、不特定物か、不特定物が特定したか、停止条件付双務契約の目的物の条件成就の成否などといった細かな分類をしていたのです。
改正法は、シンプルに危険負担は、債務者主義であることを明示し、債権者に履行不能が生じたことの責任がある場合は、債権者主義であるとしました。

危険負担と解除の関係

しかし、ここで気になるのが、解除とのすみ分けです。
というのも、改正法では、旧法と異なり、前記のとおり、解除する場合に、債務者の帰責事由を必要としていません。

そのため、当事者双方に帰責事由がなく、債務の履行が不能となった場合、顧客(債権者)は、契約の解除ができます。
ただ、その場合、債務者主義により、代金支払い債務は、当然に消滅しているとすると、解除の対象となる債務がないことになります。

そこで、改正法は、危険負担の場合、当然に債務が消滅するのではなく、債権者(顧客)は、「反対給付(代金)の履行(支払い)を拒むことができる」と定めたのです(536条1項)。

危険負担と解除の適用場面の整理

履行不能の原因 危険負担 解除
当事者双方に帰責事由なし債務者主義(536条1項)可能(542条1項1号)
債権者に帰責事由あり 債権者主義(536条2項)不可能(543条)
債務者に帰責事由あり可能(542条1項1号)

当事者双方に帰責事由がない場合
債務者主義により、先の例でいうと、絵画の納品を受けられなかった顧客(債権者)は、「反対給付(代金)の履行(支払い)を拒むことができる。」(民法536条2項)。
そして、この場合、当然に債務(代金支払い義務)が消滅しているわけではありませんので、確定的に債務を免れるために、契約解除をすることになります(542条1項1号)。

債権者に帰責事由がある場合
債権者主義により、先の例でいうと、絵画の納品を受けられなかった顧客(債権者)は、「反対給付(代金)の履行(支払い)を拒むことができない。」
ただし、「この場合において、債務者(ギャラリー)は、自己の債務(絵画の引渡し義務)を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者(顧客)に償還しなければならない。」とされています(民法536条2項)。
そして、債権者(顧客)に責任があるので、契約の解除をすることはできません(543条)。

債務者に帰責事由がある場合
危険負担の問題ではありません。
債権者(顧客)の債務(代金支払い義務)が消滅させるには、債権者(顧客)が契約の解除をすることになります(542条1項1号)。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

とら先生のぷちコラム

旧法の危険負担は、特定物か不特定物か、不特定物も確定した場合、停止条件付双務契約の目的物の条件成否によって、場合分けされており、とても分かりづらいものでした。そのため、今回の改正で、シンプルに整理されたのは、実務家としては、嬉しいところです。

危険負担と解除の整理により、債務者主義の場合、反対給付の債務を拒むことができるにとどまり、旧法のように、当然、債務が消滅するとされていないことから、買主が、間違って代金を支払ってしまった場合、旧法では、すぐに不当利得の問題となるものの、改正法では、債務は消滅していないので、その支払いも有効。ただし、契約解除により、その結果、不当利得として返還請求できる、というように一手間が必要となりました。

実際にそのような場面は多くはないかもしれませんし、契約解除の意思表示は、買主の態度、言動から分かるのでしょうから、特に問題となるものではないでしょう。ただ、理屈のうえで、ちょっと面白いなというだけですね。

 

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