【詐害行為取消】転得者に対する詐害行為取消はどのような場合に認められる?受益者が善意で転得者が悪意の場合はどうなる?

北本康毅さん

弊社は、同業の不動産業者Cから、川崎の土地を購入しました。しかし、債務者Bに対する債権者Aという者が、弊社に対し、詐害行為取消権を理由に訴訟提起をしてきました。実は、私は、Bとは知り合いで、借金で首が回らなくなっていたという話は聞いていました。そのため、Bから、この土地を買ってくれないかと頼まれたときは、断りました。その後、Bは、たまたま飛び込み営業にきたCに、事情を説明せず、廉価で土地を売ったんです。それから、たまたまCが弊社に、土地の転売の申込をしてきたので、転売であれば大丈夫だろうと思って購入しました。とら先生にAとの裁判を依頼したいのですが、勝てそうですか?

以前の判例は、転得者に対する詐害行為詐害行為取消請求の場合、転得者が詐害の事実について知っていれば、受益者が善意でも、転得者に対する詐害行為取消を認めていました。しかし、改正民法では、この場合、債権者が受益者に対して詐害行為取消請求ができることを前提にしたんです。ご相談の事例では、Cが、詐害行為の事実について知らなかったようなので、詐害行為取消は認められません。但し、Cは、廉価でBから土地を購入しているようですし、Cが詐害行為について知らなかったことは、こちらで立証する必要があります。絶対に勝訴できると断言できる事案ではありませんが、全力を尽くします。

転得者に対する詐害行為取消請求

詐害行為取消請求をする場合、詐害行為の目的物が、受益者から、すでに第三者(転得者)に移転している場合があります。
そこで、債権者としては、転得者に対して詐害行為取消請求をする必要があります。
この場合の詐害行為取消権の行使要件として、旧民法下の判例では、転得者が、転得時、詐害事実について悪意だったことのみを要件にしていました。つまり、受益者が、詐害事実について善意でも、債権者は詐害行為取消権の行使が可能でした。
しかし、これによると善意の受益者と悪意の転得者間でトラブルが生じかねません。
この点、破産法では、「当該転得者が他の転得者から転得した者である場合においては、当該転得者の前に転得した全ての転得者に対しても否認の原因があるときに限る」として、受益者の悪意を前提として、転得者に対する否認権を認めています。
そこで、改正民法では、以下の場合、つまり、債権者から受益者に対する詐害行為取消請求が認められることを前提として、転得者に対しても、詐害行為取消権を認めることにしました。
そして、この場合に、転得者が知るべきなのは、受益者の悪意ではなく、債務者がした行為が債権者を害することになります。

①債権者が受益者に対して詐害行為取消請求ができる場合であること(424条の5本文) 
②(1)転得者が受益者から転得したものである場合(同条1号)
⇒ 転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていた
 (2)転得者が他の転得者から転得した者である場合(同条2号)
転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていた

(転得者に対する詐害行為取消請求)
第四百二十四条の五 債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合 その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
参考 破産法

(転得者に対する否認権)
第百七十条 次の各号に掲げる場合において、否認しようとする行為の相手方に対して否認の原因があるときは、否認権は、当該各号に規定する転得者に対しても、行使することができる。ただし、当該転得者が他の転得者から転得した者である場合においては、当該転得者の前に転得した全ての転得者に対しても否認の原因があるときに限る。
一 転得者が転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていたとき。
二 転得者が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

ご相談の事例では、不動産業者C(受益者)は、B(債務者)の詐害の事実について知りませんでしたが(善意)、相談者の北本さんは、Bの詐害の事実について知っていました(悪意)。
そのため、旧民法下の判例解釈のもとでは、A(債権者)は、北本さんの会社に対して、詐害行為取消請求の裁判をして、これを取り消しうる可能性がありました。
しかし、改正民法では、債権者が受益者に対して詐害行為取消請求ができる場合であることが前提とされたため、北本さんの会社は、Cが、Bの詐害の事実について善意であることを立証できれば、詐害行為取消請求が認められなくなります。
なお、BC間の売買が、相当の対価で売買代金を定めていれば、424条の2により、債務者の隠匿等の意思、及び、受益者が債務者の隠匿等の意思があることを知っていたことが要件となり、詐害行為取消が認められる可能性は、さらに低くなっていましたが、相談事例では、土地の価値が、3000万円で、これを、Cは、1500万円と半値で購入していますから、相当対価の売買とは認められません。
そのため、北本さんの会社としては、通常通り、Cが、Bの詐害の事実について善意であることを立証する必要があるのです。

とら先生ぷちコラム
相談事例のように、詐害行為取消請求をするに際し、転得者がいる場合、さらに、転々得者がいる場合も少なくありません。また、詐害行為取消が認められるためには、詐害の事実、詐害の意図、受益者・転得者の善意・悪意など、様々な要素が絡み合い、また、主張立証責任の分配によって、最終的な結論が異なってきます。
立証責任とは、当事者の一方が、事実の立証が十分に出来なかった場合、敗訴するリスクのことを言います。
神様の目があれば、相談事例の場合に、C(受益者)が、詐害の事実について知らないのですから、北本さんの会社に対する詐害行為取消請求が認められる余地はありません。
しかし、裁判官は、神様ではありませんので、間違いを起こします。実際、この立証責任の負担は、極めて重い裁判上のルールです。
相談事例では、北本さんの会社が、Cが、詐害の事実について知らなかったことを立証する責任が生じます(424条1項)。そのため、Cの協力が得られない場合などは、敗訴する可能性も否めないのです。
リスクのある取引に関与する場合には、将来、裁判になったとき、どちらが立証責任を負うのかを考えて、取引に応じた方が良いかもしれません。その場合は、弁護士に相談してください。
 
 

今回の質問者はこちらの方

日本ファイナンシャルプランニング株式会社不動産事業部事業部長の北本康毅さん
馬主になることを夢見る馬好きな人です。

しかし、実際に、自分が受任した事件で、不動産の処分が問題になったときに相談すると、あっという間に解決する実績がある凄腕不動産屋。
弁護士絡みの案件だと、かなり面倒なものが多いのですが、それでも話をつけてくれる。
とても頼りになる人です。

実際には、相談事例のようなケースであれば、北本さんは、絶対に手をださないでしょうね。

※ 質問内容は架空のものです。

北本 康毅

「不動産の困った」をあなたに合った形で解決する専門家 

日本ファイナンシャルプランニング株式会社 不動産事業部 事業部長

不動産のある生活の頼れるパートナー

不動産に携わって14年目となりました。
ご自宅の購入や売却、買い替えなどのファミリーの新生活のお手伝いや、地方にある空き家やご実家の売却、加えて、ご相続に関わる不動産のお悩みや隣地とのトラブルなど様々な不動産に関する事例の解決を生業としております。

どこに相談していいかわからないご相談があればぜひお話をお聞かせください。
きっと解決に繋がる光が見えてきます。
 

Profile Picture

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

Profile Picture

お気軽にお問い合わせください。03-6206-9382電話受付時間 9:00-18:00
[土日・祝日除く ]
メールでの問合せは全日時対応しています

お問い合わせ