【詐害行為取消】連帯保証人所有のベネチアンガラスの格安販売にたいして債権者として取りうる手段と手続き方法

寺島優子先生

不動産登記の仕事をよくご依頼いただいている不動産賃貸業をしているA会社があるんだけど、借主B会社の事業がうまくいってなくて、賃料を滞納したまま居座っているそうなの。もう賃貸借契約解除をして建物明渡の裁判をしているそうなんだけど、コロナの影響で長引いてしまって、保証金だけで滞納賃料と原状回復費用はまかなえないんだって。B会社の代表者Cは、連帯保証人だけど、最近、趣味で集めている骨董のベネチアンガラスを何個か、知人Dに格安で売買していることが分かったんだ。DからEに転売されているという噂も聞くんだけど、これからどうすれば良いのか、どういった手続きがあるのか教えて。

ベネチアンガラスは、骨董としての価値が高いから、Cから知人Dへの売買は、資産隠しの可能性があるね。この場合は、A会社を債権者として、CD間の売買契約を詐害行為取消請求をすることが考えられます。誰を相手にするのか、詐害行為の取消の範囲、債権者が直接支払い、引き渡しを求めることができるか等、改正民法では、ルールが整備されたのでご説明します。

財産の返還又は価額の償還の請求

詐害行為取消請求をした場合、旧民法下の判例は、債務者の詐害行為の取消しとともに、逸出財産の取り戻しもできるとしていました。このことを、改正民法では、明文化しました(424条の6)。
これを整理すると、次のとおりとなります。

詐害行為取消請求の相手方
①受益者
(1)債務者がした詐害行為の取消し
     + ※(1)のみでも可
(2)受益者に対し
ア 財産の返還請求
イ 財産の返還が困難なときは、価額償還請求
②転得者
(1)債務者がした詐害行為の取消し
     + ※(1)のみでも可
(2)転得者に対し
ア 財産の返還請求
イ 財産の返還が困難なときは、価額償還請求

(財産の返還又は価額の償還の請求)
第四百二十四条の六 債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
2 債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。

被告及び訴訟告知

詐害行為取消請求をする場合の被告は、受益者あるいは転得者になり、債務者は被告となりません。
しかし、425条で、詐害行為請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有するとされ、債務者に、敗訴判決の効力が及ぶことになります。
そのため、債務者の手続き保障のため、債権者は、詐害行為取消の裁判をした場合は、債務者に対し訴訟告知をしなければならないとされました。
訴訟告知をしなかった場合の効果についての規定はありませんが、訴えは却下されることになるでしょう。

(被告及び訴訟告知)
第四百二十四条の七 詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
一 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え 受益者
二 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え その詐害行為取消請求の相手方である転得者
2 債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

詐害行為の取消の範囲

改正民法では、債権者が詐害行為取消請求をする場合
債務者がした行為の目的が可分であるとき
自己の債権額の限度においてのみ
その行為の取消を請求できる旨明文化されました。

(詐害行為の取消しの範囲)
第四百二十四条の八 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
2 債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

債権者への支払い又は引渡し

債権者は財産の返還又は価額の償還の請求で説明したとおり、受益者または転得者に対して財産の返還を請求できるとしており(424条の6)、返還請求が金銭の支払い又は動産の引渡しの場合について、直接の引渡しの方法を、次のとおり明文化しました(424条の9)。

詐害行為取消請求の相手方
①受益者
(1)財産の返還請求(金銭の支払い又は動産の引渡しの場合
⇒ 債権者は、金銭の支払い又は動産の引渡しを求めることが可能
(2)財産の返還が困難なときは、価額償還請求
⇒ 債権者は、金銭の支払いを求めることが可能
※ 受益者は、債権者へ支払い又は引渡ししたときは、債務者に対して支払い又は引渡しを要しない。
②転得者
(1)財産の返還請求(金銭の支払い又は動産の引渡しの場合
⇒ 債権者は、動産の引渡しを求めることが可能
(2)財産の返還が困難なときは、価額償還請求
⇒ 債権者は、金銭の支払いを求めることが可能 
 ※ 転得者は、債権者へ支払い又は引渡ししたときは、債務者に対して支払い又は引渡しを要しない。

(債権者への支払又は引渡し)
第四百二十四条の九 債権者は、第四百二十四条の六第一項前段又は第二項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
2 債権者が第四百二十四条の六第一項後段又は第二項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。

事実上の優先弁済効

受益者、転得者から直接引き渡しを受けた債権者は、債務者へ引き渡しを受けた物を返還する義務を負います。但し、債権者が債務者に対して有する被保全債権と相殺をして、被保全債権の事実上の優先弁済を受けることができます。

相談事例の検討

転得者Eにベネチアンガラスが売買されている場合、Eを相手に詐害行為取消をすることが考えられます。この場合、前記の通り、CD間の売買契約が詐害行為であることが前提となり、また、Eが、Cの詐害行為について知っていることが必要となります。そして、Eに対し、訴訟提起し、Cのした詐害行為の取消を求めるとともに、Eに対し、ベネチアンガラスの返還請求を行い、何らかの理由で、ベネチアンガラス自体の返還を求めることができない場合は、価額の償還請求をすることになります。この場合、償還請求できる金額は、AのBに対する滞納賃料、原状回復費用の範囲に限られます。実際には、敷金と相殺される可能性が高いでしょう。
また、Aは、Eに対する訴訟手続きを行う際、Cに対し、訴訟告知をすることになります。

今回の質問者はこちらの方

寺島司法書士事務所 代表司法書士・民事信託士の寺島優子さん

神奈川司法書士会のクールビューティと言われて久しい寺島先生。
しかし、最近は、子供たちに対する素直な愛情を表に出され、愛と慈しみに溢れています。
きっと、こんな司法書士の先生であれば、安心して仕事を任せられますね。

※ 質問内容は架空のものです。

寺島 優子

神奈川県西部で唯一の民事信託士

寺島司法書士事務所 代表司法書士・民事信託士

神奈川県西部の財産管理・民事信託・遺産承継業務ならお任せください!

平成24年開業以来、高齢者・障害者の方が安心して暮らしていくための財産管理方法をご提案。
スキーム作りの後も、ご依頼内容に応じて、継続的にサポートが可能です。
土地家屋調査士との合同事務所です。

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文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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