【無催告解除】履行遅滞の場合に無催告解除が認められる場合はありますが履行を催告するのが賢明です!

契約当事者を法的拘束力から解放する解除制度ですが、いったん合意した契約を、一方当事者の都合で解除できてしまっては、契約の安定性を欠いてしまいます。

そのため、改正法541条は、一方当事者が債務の履行をしない場合に、催告のうえ、相当期間を経過した後も履行しないときに契約解除を認めています。

しかし、契約を履行することができないことが客観的に明らかな場合、また、契約当事者の一方が債務の履行を拒絶する意思が明らかな場合にまで、履行を促す催告をしても無駄です。

旧民法では、①定期行為の履行遅滞による無催告解除(旧民法542条)、履行不能による無催告解除(旧民法543条)を、明文化しているのみで、当事者が拒絶の意思を明確にしている場合の解除規定はありませんでした。

定期行為の履行遅滞による無催告解除

定期行為とは、「契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない」行為を言いますが、例えば、結婚式に着るウェディングドレス、どんなに手をかけ、花嫁のために満足のいく品に仕上げても、届けるのが結婚式の翌日になっては意味がありません。
そのため、旧民法でも、無催告解除を認めていました。
改正民法でも、524条1項4号で維持されています。

履行不能による無催告解除

履行不能による無催告解除について、旧民法543条は、「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と定め、履行の一部が不能であるにすぎないときにも、契約の全部の解除を認めるかのような規定になっていました。
ただ、一部の履行が不能なだけで、契約解除が認められるのもおかしいです。
そこで、改正民法では、解釈上、疑問がでないように、契約解除が認められる場合を条文上、明らかにしました。

債務者の帰責性は不要

加えて、旧民法では、契約解除に債務者の帰責性が必要されていたものを、改正民法では、不要としたのも、前記したとおりです。

無催告解除の類型

改正民法において、無催告解除が認められる場合は、多岐にわたります。
1項では、全部解除が認められる場合、2項は、一部解除が認められる場合、これを類型化すると、次の通りです。

①全部履行不能  全部解除(1項1号)
②一部履行不能 ⇒ 一部解除(2項1号) 
③全部履行拒絶 ⇒ 全部解除(1項2号)
④一部履行拒絶 ⇒ 一部解除(2項2号)
一部履行不能又は一部履行拒絶 + 残存部分のみで契約目的達成不能(1項3号)
⑥定期行為の履行遅滞 ⇒ 全部解除(1項4号)
債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らか(1項5号)

から④の類型のように、履行不能又は履行拒絶の意思が全部か一部かによって、解除が認められる範囲も全部か一部となるのが原則であり、これは分かりやすいです。
⑤の類型は、例外として、履行不能又は履行拒絶の意思が一部でも、残存部分のみでは契約目的を達成することができないときに、全部解除を認めました。
⑦の類型は、さらに例外的に、催告しても無意味なことが明らかなときに全部解除を認めています。

なお、履行拒絶の意思による解除の場合は、履行期の前後を問いません

また、履行拒絶の意思を表示するだけでなく、これを「明確に表示」するとなっていますから、単に、債務者はが、口頭で履行しないと言うだけでなく、書面化して拒絶の意思を表示している場合や、繰り返し履行拒絶の意思を示している場合に限られると考えたほうが良いでしょう。

とら先生のプチコラム

⑦の類型は、その適用場面が明らかではありません。この点は、実務の実例の集積を待つしかありません。
実際の現場では、催告を無意味であるとして、契約解除の主張をしているケースが散見されますが、後に、契約解除の要件を満たしているかについて裁判で争われることになることも多く、裁判上の和解の話し合いの際に、解除が認められず敗訴する可能性があるとして、当事者の不利に働くことがあります。当事者の気持ちは分かるのですが、履行遅滞の場合は、相当期間を定めて履行を催告したほうが良いでしょう。契約解除の時期がずれますが、それも少しだけですから、石橋は叩いて渡ったほうが無難です。

(催告によらない解除)
第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
 一 債務の全部の履行が不能であるとき。
 二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
 三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
 四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
 一 債務の一部の履行が不能であるとき。
 二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

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