― 弁護士が史実と武士の法から読み解く ―

📜1600年 関ケ原 烏頭坂

冒頭、島津の退き口の場面からスタートします。
主人公は、島津豊久、信長の野望が好きな人なら知っているかな?
当時の島津家は、島津義久を筆頭に、義弘、歳久・家久と4兄弟すべて名将揃い。
島津豊久は、島津家久の長男です。

父の死後、家督を継いで日向佐土原城主となり、伯父島津義弘とともに、朝鮮出征で軍功をあげます。
関ヶ原の戦いでは、西軍に与し、敗戦の際、伯父である島津義弘の身代わりになって、退却戦を敢行し、無事義弘を脱出させ、自身は、徳川家の名将である井伊直政を撃退したものの、戦死したとされています。

おじ上 一人 薩摩に戻られたなら
おいも兵子もここで皆死んでも
こん戦 島津の勝ちなんでごわす
兵子ども‼射ち方構えぃ‼
死ぬるは今ぞ‼
命捨てがまるは今ぞ‼

ドリフターズ1巻

⚖️《法の眼で読む場面》

「死ぬるは今ぞ‼命捨てがまるは今ぞ‼」という言葉は、現代法の「義務」や「権利」といった概念とはかけ離れたところにあります。
当時の武士にとっての「家」への忠誠や「名誉」は、生命よりも重い絶対的な規範でした。

これは、現代の「契約」における信頼義務などとは比較にならない、文字通りの命を賭けた法規範であったと解釈できます。
この絶対的な規範意識こそが、豊久の行動原理を支えているのです。

🌍 異世界漂流 ― 英雄たちの再会

ドリフターズでは、そんな戦死したとされていた島津豊久が、ドワーフやエルフなどの亜人のいる世界に漂流します。
死にかけの豊久は、若いエルフに、「廃城」と呼ばれる朽廃した砦に連れていかれ、そこで、屋島の戦いで有名な那須与一、言わずと知れた戦国時代のヒーロー織田信長と出会います。
歴史好きの人であれば、「オーォ~」と言ってしまいそうなラインナップですね。

タイトルのドリフターズは、「漂流者」という意味で、たくさんの歴史上の偉人が、この世界に流されています。

⚖️《法の眼で読む場面》

この「異世界に漂流した者たち」というのは、現代の国際法で言えば、「難民」や「亡命者」といった法的地位のいずれにも当てはまりません。
彼らは「無国籍者」として、既存の国家群にとって法の外にある存在です。
だからこそ、彼らは既存のルールに縛られず、自由に「国盗り」という行動に走れるという、無秩序な無法地帯が成立しています。

エルフの村の救援

豊久の最初の行動は、オルテ帝国の騎士に襲われているエルフの村の救援。
無計画、かつ、突発的な行動ですが、スピード感が半端ありません。
全力で駆け抜け、あっという間に、敵の騎士を圧倒していきます。

「首置いてけ なあ 大将首だ‼大将首だろう⁉」

敵大将を組み伏せ、刀の鞘で、「ゴギッ ゴッ ゴギッ」と思いきりぶっ叩きます。
めちゃくちゃ痛そう。

敵全員を先頭不能にした豊久たちは、生き残りのエルフに対し、虫の息の敵兵に止めを刺すように言います。

殺るんだ
駄目だ殺るのだ
殺るのだ殺らねばならぬのだ
ここがどこでお前らが誰であろうと
仇はお前らが討たねばならぬ
この子が応報せよと言っている‼

ドリフターズ1巻

ためらうエルフたち、意を決し、敵兵を刺し殺します。
それを見た豊久は一言

「良か‼」

か、かっこいい!痺れます。

⚖️《法の眼で読む場面》

豊久がエルフに「仇を討たせる」行為は、現代の刑法で言う「復讐」ではなく、「応報責任」という前近代の法原理を彼らに課しています。
これは、「権利の侵害を受けた者は、自力でその被害を回復する」という原始的な思想であり、国家が刑罰権を独占する現代社会では許されません。
豊久は、エルフたちに「自らの世界を取り戻すための、最初にして最も重い権利行使」を促しているのです。

🏰 国盗りの開始 ― 「疾って夢見て死ぬか」

エルフの村を解放した豊久たちは、信長の発案で、豊久を頭目として、国盗りを始めます。
オルテ帝国の領主に対して反乱をするか否か喧々諤々の議論をするエルフに対し、豊久は言います。

おう お前たち
恥ずかしくないのか 祖先に
恥ずかしくないのか 子孫に
お前たち 国は欲しくないか
這うて悔いて死ぬか 
疾って夢見て死ぬか
どちらにする⁉
決めろ‼

ドリフターズ2巻

豊久の挑発に、反乱を決意するエルフたち
エルフに戦うための武器を与え、訓練し、戦術を与えます。

エルフの村に攻め寄せた敵軍を、武力と軍略により一蹴。
ぐろいけれど、爽快感もあります。
そして、物語は、疾走感をもって展開していきます。

⚖️《法の眼で読む場面》

豊久の問いかけは、「既存の法秩序に従うか、新たな法秩序(国)を自ら打ち立てるか」という、究極の選択を迫るものです。
豊久が問う「国」とは、「領土権や国家権力の法的形成過程」そのものであり、その形成には血が伴うという本質を突いています。

💬 感想

男子であれば、誰でも好きな漫画でないかな。とにかく展開が早くて、読んでいて引き込まれます。
そして、主人公の島津豊久が、考えるよりも先に動く、戦いに最適化した能力、思考、いちいちかっこよすぎます。
現代の上司であったら絶対に嫌ですけどね。
歴史上の人物が多数出てくるから勉強にもなりますよ。お子様には??

遅筆が難点ですが、早く続きが読みたいものです。

⚖️《法の眼からの結び》

「無秩序な異世界」に漂流した豊久、信長、与一といった偉人たちは、既存の法や常識に縛られず行動することで、この世界に「新たな法秩序(国家)」を作り出そうとしています。

現代の法律実務においても、私たちは既存の法律や判例といった*法秩序」の中で生きていますが、時に「法の穴」や「グレーゾーン」に直面し、「過去の解釈に縛られず、新しい秩序をどう作るか」を問われることがあります。

「疾って夢見て死ぬか」という豊久の問いは、「既存のルールに留まるか、それとも新たな秩序をリスクを冒してでも構築するか」という、弁護士としての思考の核心にも通じるテーマです。

この漫画は、単なる歴史ファンタジーではなく、「秩序の破壊と創造」という、法的・政治的考察においても深く楽しむことができる、極めて知的な作品だと思います。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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