寄託契約といえば、他人の物を預かる契約。
しかし、民法の中には少し特殊な“預かり方”が存在します。

それが 「混合寄託」「消費寄託」
似ているようで全く異なる、“預かる”の本質を示す二つの仕組みです。

🔹 混合寄託とは:「個の預かり」から「共有保管」へ

受寄者(預かる側)が、複数の寄託者から同じ種類・品質の物を預かり、
まとめて保管する契約です。
そして返すときは、「同じ種類・数量」の物を返還します(民法665条の2)。

▪️ 典型例

石油、酒類、穀物など――タンクや倉庫で大量に扱われるケース。
誰の分がどれ、という区別が現実的にできないため、
“混ぜて保管し、等価の量で返す”という合理的な仕組みです。

▪️ 通常の寄託と異なる点

  • 混合寄託:同種類・同数量で足りる。
  • 通常の寄託:同一物の返還義務(預けたその物を返す)

消費寄託と異なる点

受寄者に処分権がない
つまり、預かった物を勝手に使ったり売ったりはできません。

▪️ 要件と効果

1️⃣ 寄託物の種類・品質が同一であること
2️⃣ 寄託者全員の承諾があること

一部滅失した場合には、各寄託者は総量に対する自分の割合に応じて返還を請求できます。
また損害が出た場合には、損害賠償請求も可能です。

(混合寄託)
第六百六十五条の二 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる。
2 前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。
3 前項に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

消費寄託とは:「使ってよい預かり」

受寄者が寄託物を消費してもよく、代わりに同じ種類・品質・数量の物を返す契約です(民法666条)。
典型例は 銀行預金

銀行は預金を金庫に保管しているのではなく、貸出などに運用しています。
それでも預金者がいつでも同額を引き出せるのは、この契約が「消費寄託」だからです。

旧法とのちがい:準用条文の見直し

旧民法では、消費寄託は消費貸借契約(お金の貸し借り)と似ているため、多くの条文が準用されていました。

しかし、性質は真逆です。

  • 消費貸借:借主の利益(自由に使いたい)
  • 消費寄託:寄託者の利益(安全に保管してほしい)

改正民法では、準用されるのは以下の2つのみとなりました。

📘 民法590条(貸主の契約不適合責任)
📘 民法592条(価額償還義務)

(消費寄託)
第六百六十六条 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
2 第五百九十条及び第五百九十二条の規定は、前項に規定する場合について準用する。
3 第五百九十一条第二項及び第三項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

混合寄託と消費寄託は、一見すると地味な条文ですが、現代の経済活動を支える「合理性の骨格」そのものです。

混合寄託は、膨大な物資を扱う流通・エネルギー産業において、「個の区別」を諦める代わりに「リスクを公平に分散する」という、極めて合理的なルールを法が認めた証です。
法は非効率を許容せず、経済の円滑化に奉仕しています。

一方、消費寄託の代表例である銀行預金は、「受寄者は自由に使ってよいが、寄託者が望むときに返す」という、処分権と返還義務の間の「信頼の契約」です。
改正民法が準用条文を整理し、その本質を明確化したことは、預金者保護の法理をより盤石にしました。

👉 改正民法がこれら特殊な預かり方を改めて条文化したことは、「法は、取引の合理性と人の信頼を、どちらも犠牲にしない」という強いメッセージです。

倉庫の隅々や、銀行のシステムを支えているのは、この「信頼と合理性のバランス」です。
私たちは、この静かな条文の背後に流れる、市場の活発化と、取引相手への誠実さという、民法の変わらぬ原理を読み取るべきでしょう。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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