持続化給付金の不正請求と詐欺事案についての一考察

持続化給付金の不正請求について、詐欺で逮捕されたとの報道が連日なされています。
この流れは、しばらくの間続くことが予想されますが、どうしてこのような状況になっているのでしょうか?

報道でも目に付くとおり、原因の一端は、新型コロナの影響による売り上げ減少によって困っている人に出来る限り速やかにお金を配布する必要性と不正請求をする人間が少ないだろうという性善説をもとにした制度設計。
支給手続きは極めて簡便。少し知識のある人であれば、誰でも申請可能。
必要書類も、下記のものだけ。

①白色申告であれば、2019年の確定申告書第1表(1枚)のみ
②2020年の対象月の売上台帳も手書きでもOK
③通帳の写し
④本人確認書の写し

新型コロナの影響で、確定申告期限の延長、期限後の申告も柔軟に対応がされていたから、後付けの確定申告も問題なかったのでしょう。
売上金額の操作のしやすさにより、不正受給の増大に拍車がかかりました。

詐欺事件の刑事立件の困難さ

実感として、詐欺の刑事立件は、非常に難しいです。
詐欺被害にあったとの相談を受けて、刑事告訴を行ったことは何度もありますが、告訴状を受理してもらうこと自体が難しいですし、また、告訴状受理後も、被疑者を起訴するどころか逮捕するのも難しいのが現実です。
理由は、詐欺罪が、故意犯だから。
つまり、詐欺行為をする際に、相手から財物(お金)を騙し取るという意思が必要です。

絶対におすすめのクリーンエネルギーの最先端特許をもっている投資先があるんですよ。年利18%の配当があって、それがずっと続きます。私を信じて任せてください。絶対に損はさせませんから1000万円お預かりできますか?

例えば、有望な投資先があるから、是非、出資して欲しいと頼まれて、1000万円を交付して、結局事業化せず、お金も戻ってこなかった場合、出資者は騙されたと思うでしょう。そして出資者は、実際に騙されているのでしょう。
しかし、被疑者は、こんな言い訳をします。

大変申し訳ない。投資先の会社ですが、提携していた会社の業績不振で、当初想定していた事業化ができませんでした。しかし、今回の損を取り戻せるくらいの良い投資先を見つけたきたので、安心してください。

実際に、有望な投資先だと考えていて事業化する計画があった。たまたま、投資先の提携会社が業績不振となり、予定通り事業化できなかっただけで、騙す意思はなかったと、被疑者が言い張った場合、出資して欲しいと頼んだ時点で、騙し取ってやろうと思っていたと証明することは難しいでしょう。
また、詐欺で立件するためには、証拠が必要となってきますが、商談する際、毎回録音をしている人もいないでしょうから、欺罔文言の特定も難しいです。

(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

 

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

持続化給付金詐欺の手口

そんな刑事立件されにくい詐欺、そして、簡単に誤魔化しができる制度設計。
詐欺師からすれば、こんなおあつらえ向きな商売はありません。「きたぜ、ビッグウェーブ!」と歓喜したに違いありません。
あとは、規範意識の乏しい一般人を勧誘すれば濡れ手に泡です。

持続化給付金は、個人事業主であれば誰でも請求できるから、あなたもネット通販業をしていたことにすれば大丈夫。資料はこちらで全部準備するから、免許証と通帳のコピー貸してね。給付金100万円を受給したら、50万円手数料でもらうけど、良いよね?

報道から見る手口だと、SNSなどで、誰でも簡単に請求できるとうたって、申請者を募っているケースがあるようですが、あの新型コロナの非現実的な状況下では、そのような誘いに乗ってしまうのも分かる気がします。赤信号もみんなで渡れば怖くないといったところでしょう。

持続化給付金詐欺の立件の容易さ

しかし、詐欺は刑事立件されにくいと言いましたが、この持続化給付金詐欺については、虚偽内容の確定申告書、売上台帳という明々白々な隠しようのない証拠があります。その証拠と、実際の2019年度の事業実態、売上、収入を捜査すれば、詐欺の立証は容易です。
持続化給付金詐欺は、不正請求で楽に大金をせしめられますが、これほど刑事立件しやすい詐欺もないでしょう。立件のしやすい特殊な詐欺といえます。

詐欺の罰則

詐欺罪には罰金刑がありません。
つまり、詐欺罪で逮捕されるなど、刑事事件化すると、起訴猶予処分で不起訴となるか、起訴されて刑事裁判の法廷にたつしかありません。
罰金刑があれば、略式起訴で、刑事裁判の法廷にたつことなく、罰金を納付するだけで終了することができるのですが、そういった処理ができないからです。

現時点の捜査の状況と今後の予測

現在の持続化給付金詐欺の逮捕報道を見ると、不正請求を指南したり、複数の請求を行っていた人間が逮捕されているようです。
これは単純に捜査機関のマンパワーの問題で、特に悪質な事案を優先しているからでしょう。
今後、組織的な詐欺事案の摘発は、相当長期間続くと思われます。

中小企業庁のホームページには、不正受給時の対応について、下記の記載があります。

①給付金の全額に、不正受給の日の翌日から返還の日まで、年3%の割合で算定した延滞金を加え、これらの合計額にその2割に相当する額を加えた額の返還請求。
②申請者の屋号・雅号等を公表。不正の内容が悪質な場合には刑事告発。

中小企業庁 持続化給付金ページ

中小企業庁は、不正受給が判明した場合、申請者の屋号・雅号等を公表、不正の内容が悪質な場合には刑事告発するとのことですが、刑事告発までに至らないまでも、中小企業庁からの返還請求は、今後、増大の一途をたどるでしょう。

中小企業庁ホームページでは、持続化給付金の返還方法に関するご案内がされています。
身に覚えのある人は、返金したほうが良いと思いますし、今すぐに返金できなくても、返金請求が来るまでの間に、お金を貯めておいた方がよいでしょう。
万一、将来、詐欺の被疑者として扱われるようなことがあっても、お金を返せば、不起訴になる可能性が高くなります。

実際に、個人レベルの詐欺事案について、刑事立件されるかは分からないですが、被害者が国ですから、徹底的にやるかもしれません。こればかりは分かりません。
個人レベルの詐欺で逮捕者がでたとの報道がいつなされるか、もしそんな報道があったら、捜査は次のステージに移ったと考えて良いでしょう。

中小企業庁による不正受給の調査や警察の捜査が開始されている場合等は不正受給額の返還ができない??(令和2年10月7日追記)

「返金請求が来るまでの間に、お金を貯めておいた方がよいでしょう。万一、将来、詐欺の被疑者として扱われるようなことがあっても、お金を返せば、不起訴になる可能性が高くなります。」と述べていましたが、令和2年10月6日、中小企業庁は、不正受給者に返金を求め、「中小企業庁による不正受給の調査や警察の捜査が開始されている場合等、返還を受け付けられない場合があります。」とした案内を作成し、同時に、Twitterで、「中小企業庁が不正受給の疑義について調査を始める前に、自主的に返還を申し出た方は、後日、実際に返還いただければ加算金を課さない予定です。」とツイートし、見事な飴と鞭の施策を実施しています。

前者については、確かに、本件のような詐欺事案で、実際に起訴するまでに不正受給額を返金すると実際の被害がなくなるため、検察官としては起訴しにくい状況となります。立件しやすい詐欺とは言いましたが、捜査機関としては、100%と有罪とするために証拠資料を集めているのに、被疑者が不正受給額を返金し、被害がなくなったから起訴訴猶予の可能性が高くなるのではくたびれ損です。
また、起訴することによる抑止効果も減殺されてしまいます。
そのため、警察の捜査が開始されている場合は、返還を受け付けない場合があると規定しているのでしょう。

他方、自主的に返還を申し出れば加算金を課さない予定とするのは、刑事事件における自首減刑と同じ趣旨で、経済的利益を提示することで、自主申告を増やそうとしているのでしょう。
本当に、中小企業庁による不正受給の調査や警察の捜査が開始されている場合に返金を受け付けないかは定かではありませんが、おそらく起訴後の段階であれば、組織的詐欺グループの首謀者やグループの中心的メンバーについては別として、一般の方の返還は継続して受け付けるのではないかと思います。

お金が準備できるのであれば、大人しく返還の手続きを取ったほうが無難でしょう。

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