【詐害行為取消】不動産売買が相当対価によるものか問題となる事案における不動産鑑定士の活躍場面

藤田勝寛先生

俺が5000万円で不動産鑑定をしたマンションが、売主Bから、Bの知り合いの買主Cに、4800万円で売買されたんだけど、Bは、Aに2000万円の借金があって、Bには他に目ぼしい財産がなかったそうなんだ。それで、Aが、Cを相手に売買の取消を求めて訴えていて、Aの弁護士から、「5000万円の査定で間違いないのか。」と聞かれているんだけど、何か問題が生じるのかな? 不動産査定が、5000万円なのは間違いないよ。

BC間の売買が、相当の対価で行われているか否かが、詐害行為取消の関係で影響を及ぼすんだろうね。債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為を取り消すことができるというのが、詐害行為取消制度だけど、改正民法では、相当対価での財産の処分の場合、債務者に隠匿等の処分をする意思があること、かつ、受益者がそれを知っていることを要求しているんだ。だから、藤田先生が、BとCに頼まれて不当に安い不動産鑑定書を作ったのではないかと疑っているんだよ。不動産査定に間違いがないのであれば特に問題ないけど、裁判所に証人として呼ばれるかもしれないね。

詐害行為取消権の基本 

改正民法によって、詐害行為取消権の内容が整理されました。
今まで、旧民法424条から426条の三条だけで規定されていたものが、改正民法では、詳細に、条文化されています。これは、判例上確立してきた内容や、破産法との兼ね合いを意識して作成されたものです。
今まで、判例の解釈で問題となっていたものが、条文に明記されたことによって、紛争解決に資することになるでしょう。

詐害行為取消権は、債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるという制度です。
詐害行為取消が認められるためには、次の要件が必要となります。

①債務者が債権者を害することを知ってした行為であること(424条1項本文)
 👈受益者が行為時に債権者を害することを知らなかったときは行使不可(同条1項但書)  
②財産権を目的とすること(同条2項)
③債権は、行為時より前の原因に基づいて発生していること(同条3項)
④強制執行により実現できない債権は、行使不可(同条4項)

①について、旧民法では、「法律行為」とされていましたが、詐害行為取消の対象となるのは、時効更新事由である債務の承認なども含まれることから「行為」と規定されました。
また、受益者が、債権者が害することを知らなかったときは、行使できないとされています。条文構造から、債権者を害することを知らなかったについては、受益者が立証責任を負います
③について、債権は、行為時よりも後に発生した遅延損害金も含むことから、「行為時より前の原因」に基づいて発生していることと規定されました。

(詐害行為取消請求)
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

相当の対価を得てした財産の処分行為の特則

債務者の有する唯一の財産が不動産の場合、それを売却して、流動性の高い現金に換えることは、債権者を害する行為と言えます。
しかし、相談事例のように、相当の対価を支払って不動産を取得した場合にも、詐害行為取消が認められるとすると、誰も、Bから不動産を取得しようと考える人はいなくなってしまいます。

これと似た状況が、破産手続きにおける破産管財人の否認権にも言えます。
否認権は、破産手続開始前になされた破産者の行為またはこれと同視できる第三者の行為の効力を否定して破産財団の回復を図る権利を言います。
しかし、これを無制限に認めるわけにもいきません。窮乏した破産者が、財産を処分するのは当たり前の行為ですし、相当対価を支払って取得した第三者の法的地位の安定を図る必要があります。
そこで、破産法は、相当の対価を得てした財産の処分行為の否認ができる場合の要件を定めています。
そして、詐害行為取消権においても、まったく同じ要件を定めています。それが、次の要件です。

①その行為が隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせるものであること(424条の2第1号) 
②債務者が隠匿等の処分意思を有していたこと(同条第2号)
③受益者が、行為の当時、債務者が隠匿等の処分意思を有していたことを知っていたこと(同条第3号)

相談事例で言えば、Bは、唯一の財産であるマンションを、知人のCに売買して現金化しており、容易にこれを隠匿等の処分をすることができます。
よって、①には当たりそうです。
また、②についても、隠匿等の処分意思を有していた可能性は高いです。
しかし、③Cが、Bの隠匿等の処分意思まで知っていたと言えるかは微妙でしょう。
Cが、Bの親族であったり、もしくは、BのAに対する借金について事情をよく知る立場にある人であれば、③についても認められる可能性は高いと言えます。
しかし、単なる知人の場合、BがAを含む債権者から金銭を借りていると知っていて、しかも、マンションの売買により金銭を隠匿等しようとしていることを知っているとまでは言うのは難しいです。
しかも、これらの立証責任を負うのは、Aです。
よって、Aの詐害行為取消の請求は、認められない可能性が高いと言えます。
つまり、売買時の不動産価格は、424条と424条の2の適用の関係で重要な役割を果たすのです。

(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
第四百二十四条の二 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
参考 破産法
(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
第百六十一条 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

とら先生ぷちコラム
いったん購入した不動産などが、詐害行為取消権により、受益者から債務者のもとに所有権が戻されては、受益者の法的地位の安定性が図れません。そのため、詐害行為取消が認められる場面は、限定的であるべきですが、他方で、債務者が、不当に請求逃れをすることを認めることも、法の正義に反します。
そこで、改正民法では、424条で詐害行為取消が認められる場面を広く認めつつ、それを抑制する形で、424条の2以下を定めています。
相談事例では、藤田先生の不動産査定額が5000万円で間違いのないものだったため、Aの詐害行為取消は認められない可能性が高いですが、不動産業者の簡易査定だと、業者によって、1000万円前後の価格の違いは簡単に出てしまうため、査定の信用性としては、低いのが実際です。裁判では、原告・被告ともに自分に有利な査定結果を証拠として提出するので、どうしても両者に開きがでてしまいます。
そういった場合、国家資格である不動産鑑定士の不動産鑑定書があると、価格の信用性が、ぐっと上がります。不動産鑑定士は、一般の方には、あまり馴染みのない職業かもしれませんが、不動産の売買においては、重要な役割を担う可能性のある職業と言えるでしょう。
 

今回の質問者はこちらの方

不動産鑑定士の仕事をしている藤田勝寛先生
いまだに現役でマスターズ陸上を継続している真正のどМ(自称)ですが、培われた耐久力は並ではありません。
実際に仕事をお願いしても、速やかに満足いく不動産鑑定をしてもらっています。
仕事ができて、とても親しみやすい藤田先生、一度、こちら(Facebookページ)をのぞいてみてください。
クスっとする内容ながら、巧みな文章力。藤田先生の底知れぬ力を垣間見れますよ。

※ 質問内容は架空のものです。

藤田 勝寛

走る不動産鑑定士

株式会社あかつき不動産サービス 代表取締役 

走る不動産鑑定士

大学卒業後、大手不動産会社で勤務後、不動産鑑定士2次試験に27歳で合格。
平成17年3月、不動産鑑定士登録。
株式会社日税不動産情報センター、株式会社東京カンテイにて不動産鑑定士の実務を積み、平成21年7月、横浜市に「㈱あかつき不動産サービス」を設立。
前職で養った経験能力を活かし、多くの税理士より相続に伴う不動産評価や不動産有効活用コンサルティングの相談を受ける。
現在では、弁護士、公認会計士、不動産業者等からも不動産鑑定・コンサルティングの相談が寄せられる。
仕事で訪れた都道府県は約42に及び、「諦めずに走る鑑定士」としてフットワークの軽さをモットーとしている。

プライベートでは中学~大学まで10年間陸上競技(短距離)を続け、31歳の時に競技活動を再開。現在は35歳以上で5歳刻みのレースを行うマスターズ大会を中心に、幅広く参加。日々トレーニングに励む。
 
●主な陸上競技の戦績
2016年 アジアマスターズ選手権(40~44歳の部) 400m優勝
2017年 ワールドマスターズゲームス(40~44歳の部) 4×400mリレー
 

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文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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