“遺言執行者”の責任と誤解──家族との対立が生む落とし穴


「兄だから当然でしょ?」
妹のその一言に、私は言葉を失いました。
遺言書に従い“遺言執行者”となった私の人生は、家族の中で軋み始めていったのです。

■ 遺言執行者という役目

遺言執行者とは、遺言書に記された内容を具体的に実行する人です。
例えば、以下のような手続きを行います:

  • 不動産の売却や名義変更
  • 預貯金の解約・分配
  • 遺言に基づく寄付や贈与の実行

そして多くの場合、家庭内の誰かが任命されます
それは、信頼の証であると同時に、感情的な対立の火種にもなり得るのです。


■ 誤解される“当然の権限”

遺言執行者は、法的には強い権限を持ちます。
たとえば、以下のような処分も他の相続人の同意なしに可能です。

  • 遺言に基づく不動産売却
  • その代金の管理や分配

にもかかわらず、多くの相続人はこう思っています。

「みんなの了承を取って進めるべきでしょ」
「勝手に売るなんてありえない」

この“誤解”が、争いを呼ぶのです。


■ 弁護士として見た家族対立の現場

実際に私が関与したある案件では──
遺言で長男が執行者に指定され、不動産を売却しようとしたところ、妹が激怒しました。

  • 遺言の偽造を疑う
  • 遺言無効確認の訴えの提起
  • 遺産分割協議の要求

一つの誤解が、家族を裁判所に向かわせるほどの深刻な溝となったのです。


■ トラブルを防ぐための4つの視点

このような事態を避けるには、次のポイントが大切です:

  1. 内容と目的の共有
     → 遺言書の内容を説明し、背景事情も丁寧に共有する。
  2. 一方的に見せない工夫
     → 法的には正しくても、“相談しながら進めている”という姿勢が信頼を生みます。
  3. 理不尽な攻撃には冷静な対応を
     → 適切な法的措置で対抗し、真実を主張することも必要です。
  4. 感情的対立が予想される場合は、第三者を執行者に
     → 最初から弁護士などを指定するのも一案です。

■ 遺言が遺すもの

遺言は、故人の最終意思。
ですが、それを実現する過程では、残された者たちの心の軋みが浮き彫りになります。

「兄だから、当然でしょ」
その裏には、信頼とともに、未消化の感情やわだかまりが潜んでいることもあるのです。

もし、遺言執行の中で戸惑いや対立に直面したら──
一人で抱えず、専門家にご相談ください。
法の力と冷静な対話が、その対立を解く糸口となるはずです。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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