
✍️ 「カレンダーに刻まれた“失念”」
法務部のフロアに響くのは、キーボードの音と電話の声。
いつもと変わらない午後だった。
そのとき、机の端に積まれたファイルを開いた瞬間、私は凍りついた。
――契約日、2019年3月。請求権発生日、2020年5月。
「……まさか」
慌てて民法改正の施行日を確認する。2020年4月1日。
原因行為が施行日前……つまり、この請負契約には旧法が適用される。
消滅時効は3年。
私は時計を見た。そこには、すでに2023年6月のカレンダー。
指先から冷や汗が流れるのを感じた。
「終わった……もう、時効は完成している」
頭の中で取引先の顔がよぎる。社内会議で胸を張って「請求は可能です」と説明した自分の言葉が蘇る。
たった一つの日付の見落としが、何千万円という債権を消し去ったのだ。
椅子に背を預けると、視界がにじんだ。
一流企業の看板を背負う法務部のはずが、その実態は、たった一本の線をカレンダーに引き忘れただけで崩れ去る。
「気づいたら時効が完成していた……」
記事の見出しにあった言葉が、皮肉のように頭の中で響いていた。
❓ 「気づいたら時効が完成していた…」を防ぐために
実務で最も怖いのが、
「いつか請求しよう」と思っているうちに、時効が完成して権利を失ってしまうことです。
2020年4月1日施行の改正民法では、この消滅時効のルールが大きく変わりました。
この記事では、
- 改正前と改正後で何が違うのか
- 経過措置で特に注意すべきケース
- 実務で押さえておきたいチェックポイント
をわかりやすく整理します。
📘 改正前と改正後の違い
改正前のルール
- 一般債権:10年
- 商事債権:5年
- 職業別の短期消滅時効(例:工事請負は3年など)
👉 バラバラで複雑なため、債権管理に大きな負担がありました。
改正後(民法166条)
改正後は、債権の種類を問わず、次の二本立てに統一されました。
- 債権者が権利を行使できることを知った時(主観的起算点)から5年
- 権利を行使できる時(客観的起算点)から10年
👉 特に取引債権の多くは「いつから権利が発生しているか」が明確なので、実務的には 5年ルール を意識することが重要です。
🔍 改正法と旧法、どちらが適用される?
施行日(2020年4月1日)を境に適用が分かれます。
- 施行日前に発生した債権 → 旧民法
- 施行日以後に発生した債権 → 改正民法
要注意ケース:「原因行為」が施行日前
例えば、
- 2020年3月10日:建築請負契約を締結
- 2020年5月25日:工事完成 → 報酬請求権が発生
債権発生は4月以降ですが、契約締結は施行日前なので旧民法が適用されます。
旧民法では工事請負債権は「3年」で時効消滅。
改正民法では「5年」となるため、適用を誤ると大きなリスクになります。
💡 実務でのチェックポイント
- 契約締結日が 2020年4月1日より前か後かを必ず確認する
- 取引債権は、5年時効が適用されると考えて管理する
- 時効完成を防ぐために、承認・請求・仮差押えなど更新事由の有無を点検する
🧭 まとめ
- 消滅時効は 5年と10年の二本立てに整理された
- 経過措置により、原因行為が施行日前なら旧法が適用される
- 実務では「契約日と発生日の両方を確認」することが不可欠
時効完成は、気づいたときには取り返しがつかない事態を招きます。
この機会に、自社の債権管理体制や契約書管理のルールを改めて見直すことを強くおすすめします。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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