― 受益者が善意で、転得者が悪意だったらどうなる? ―

💬 相談事例
債務者が財産を第三者へ移すと、債権者は詐害行為取消権で元に戻すことができます。
しかし、財産がさらに別の者(=転得者)へ渡っていたらどうなるのか。
債権者はその転得者にも取り消しを主張できるのかが問題となります。
本記事では、不動産業者からのご相談から、具体的に解説します。

うちは同業のC社から川崎の土地を購入しました。
ところが、債務者Bの債権者Aという人から、“詐害行為取消”を理由に訴えられたんです。
実はBとは知り合いで、借金で苦しんでいたことは知っていました。だからBから直接買うのはやめました。
その後、BはCに事情を隠して安く土地を売り、Cがうちに転売。転売なら問題ないと思ったのですが……勝てるでしょうか?

「旧民法では、転得者(北本さんの会社)が詐害事実を知っていれば、受益者(C)が善意でも取消が認められることがありました。
しかし、改正民法では、“債権者がまず受益者に対して取消をできること”が前提となりました。
ご相談のケースでは、Cが詐害の事実を知らなかったようですので、原則として取消は認められません。
ただし、CはBから相場の半値で土地を購入しています。この点で“本当に善意だったのか”を立証する必要があります。
絶対に勝てるとは言えませんが、全力を尽くします。」
※ 相談内容は解説にリアルティをだすため設定した架空のものです。
詐害行為取消と転得者の関係
改正民法での新しいルール(民法424条の5)
改正民法は、転得者への取消要件を次のように整理しました。
- 債権者が受益者に対して詐害行為取消をできる場合に限る。
- 転得者が受益者から財産を得た時点で、「債務者の行為が債権者を害すること」を知っていた場合に限る。
- 転々得者(さらに転売された場合)は、すべての転得者が詐害の事実を知っていたことが必要。
この整理によって、旧民法のように「受益者が善意でも転得者が悪意なら取り消せる」という不公平が解消されました。
🔍 旧民法との比較
比較項目 | 旧民法 | 改正民法 |
---|---|---|
受益者の善意・悪意 | 不問(善意でも取消可能) | 受益者への取消が前提 |
転得者の悪意 | 要件 | 要件 |
転々得者の扱い | 不明確 | 全員の悪意が必要 |
破産法との整合性 | なし | 第170条に整合性確保 |
🔹 転得者に対する詐害行為取消請求(民法424条の5)
相談者のケースを法的に整理

- B(債務者):借金逃れのため、土地をCに半額で売却。
- C(受益者):Bの事情を知らず購入(=善意)。
- 相談者(転得者):Bが借金で困っていたことを知っていた(=悪意)。
このような場合、旧民法の下ではA(債権者)は相談者に対して取消を主張できる余地がありました。
しかし、改正民法では、Cへの取消が認められない限り、相談者への取消も認められません。
したがって、相談者としては、
「Cが詐害の事実を知らなかった(善意)」ことを立証できれば、
詐害行為取消請求は認められない可能性が高いといえます。
立証の難しさとリスク
裁判で問題となるのは、まさにこの「善意の立証」です。
つまり、Cが「知らなかった」という事実を、相談者が証明しなければなりません。
これは非常に難しい――いわば「悪魔の証明」に近い作業です。
Cが協力しなかったり、やりとりの記録が残っていない場合、
裁判官が「本当に知らなかった」と確信できない限り、立証不十分として敗訴のリスクがあります。
さらに、土地の価格が相場の半値という点は、
裁判所から「不自然に安い=事情を知っていた可能性がある」と見られやすく、
相談者にとっては不利な要素にもなります。
実務での対策ポイント
✅ 善意・悪意の立証責任を意識する
取引に関わった人の「認識」を証明するため、
契約経緯・メール・交渉メモなどを必ず残しておくこと。
✅ 価格の合理性を裏付ける
不動産評価書・鑑定・周辺取引事例など、客観資料を備えておく。
✅ 弁護士への事前相談
リスクのある取引では、「将来裁判になったとき、誰が立証責任を負うのか」を確認しておくこと。
これだけで、後のトラブルを大幅に防げます。
🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点
詐害行為取消権は、債務者が財産を隠匿する背信的行為から債権者を守るための、強力な「正義の剣」です。
しかし、その刃は、一見無関係に見える転得者にも届きます。
改正民法は、取引の安定を重視し、「まず受益者への取消が成立すること」を前提とすることで、
ご相談者のように意図せず巻き込まれた転得者の保護を強化しました。旧法下の不公平な裁定は是正されたといえます。
👉 とはいえ、この法の整理にもかかわらず、裁判実務には今なお「立証責任」という重い鉄枷(てっかせ)が残ります。
法律上の構造では、「受益者Cが善意なら、転得者である相談者は救われる」はずです。
しかし、そのCの心の状態(善意)を、相談者が裁判官に証明しなければならないのです。
裁判官は神様ではありません。第三者の「知らなかったこと」を立証するのは、まさに「悪魔の証明」に等しい難題です。
この裁判は、「条文上の要件を満たせば勝てる」という安易な考えが、実務では通用しないことを示しています。
特に半値での取引など不自然な要素がある場合、「真実の証明」の困難さはさらに増すでしょう。
➡️ だからこそ、不動産取引に関わるすべてのプロフェッショナルへ警鐘を鳴らします。
リスクのある取引に臨む際には、将来「善意だった」と堂々と主張できるよう、契約経緯・価格の合理性・交渉記録などの証拠を必ず残すこと。
それこそが、法的な要件と立証の現実という二つの荒波からビジネスを守る最強の防御策となるでしょう。
今回の質問者はこちらの方
日本ファイナンシャルプランニング株式会社不動産事業部事業部長の北本康毅さん
馬主になることを夢見る馬好きな人です。
しかし、実際に、自分が受任した事件で、不動産の処分が問題になったときに相談すると、あっという間に解決する実績がある凄腕不動産屋。
弁護士絡みの案件だと、かなり面倒なものが多いのですが、それでも話をつけてくれる。
とても頼りになる人です。
実際には、相談事例のようなケースであれば、北本さんは、絶対に手をださないでしょうね。
北本 康毅
「不動産の困った」をあなたに合った形で解決する専門家
日本ファイナンシャルプランニング株式会社 不動産事業部 事業部長
不動産のある生活の頼れるパートナー
不動産に携わって14年目となりました。
ご自宅の購入や売却、買い替えなどのファミリーの新生活のお手伝いや、地方にある空き家やご実家の売却、加えて、ご相続に関わる不動産のお悩みや隣地とのトラブルなど様々な不動産に関する事例の解決を生業としております。
どこに相談していいかわからないご相談があればぜひお話をお聞かせください。
きっと解決に繋がる光が見えてきます。

文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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