【債務不履行による損害賠償】原始的不能でも損害賠償請求はできるのか?損害の範囲は信頼利益or履行利益
とらさん。知人が、転売目的で投資用マンションの一室を購入して、売買契約日に、代金決済をして、所有権移転登記の申請までしたんですが、実は、売買契約の前日に、隣の部屋の住人の失火で全焼してたんだそうです。客観的に履行不能ですが、知人(買主)は、転売利益も含めて損害賠償請求したいそうなんですが認められますか?
売買契約時に履行不能のことを、原始的不能といって、旧民法下では、当然無効とも考えられていました。改正民法では、履行を求めることはできないけど、当然に無効ではなく、損害賠償請求ができるとされています。また、損害の範囲には、信頼利益だけでなく履行利益も含むとされていますから、転売利益も含めて損害賠償請求が認められる可能性はあります。ただ、売主の帰責事由が必要なので、隣家からの失火について、契約及び取引上の社会通念に照らして売主に責任がないと立証されると、損害賠償請求は認められません。
履行不能の場合
履行不能の判断基準の明文化
改正民法では、履行不能の場合、債権者は債務の履行を請求できないという当たり前のことが明文化されました。
そして、いかなる場合に履行不能になるのか、債務の履行が『契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして』不能にあたるかを判断されることになりました(412条の2第1項)。
原始的不能の契約の場合でも、当然に契約無効ではなく、契約としては有効であることを前提に、損害賠償請求できることを明示しています(412条の2第2項)。
原始的不能の賠償請求の範囲に履行利益を含む
このことは、原始的不能の契約の場合、旧民法下では、賠償の範囲について信頼利益に限られるとされていたものが、改正民法では、履行利益まで及ぶことを意味します。
信頼利益と、履行利益の違いは、契約が有効に成立していたら得られたであろう利益まで損害として含めるか否かの違いがあります。前者は含まれず、後者は含まれます。
債務不履行に基づく損害賠償請求
債務者に帰責事由が必要
但し、帰責事由がないことの立証責任は債務者にあり
旧民法では、履行不能の場合のみ、帰責事由を求められているような条文の記載になっていたものの、履行遅滞の場合にも、債務者の帰責事由が必要とするのが判例・通説でした。
そこで、改正民法では、債務者の帰責事由が必要であることを明記し、さらに、債務者の帰責事由の判断にあたっては、債務の不履行が『契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして』判断されることになりました(415条1項但書)。
また、その条文構造から明らかなとおり、債務者が、帰責事由のないことの立証責任を負うことになります。
立証責任とは、当事者の主張を根拠づける証拠の収集、提出を行うことを言います。つまり、債務者が、自分に帰責事由がないことを証拠によって、裁判所に認めてもらえなければ、帰責事由はあったと認定されます。
てん補賠償請求権
415条2項は、次の場合に、てん補賠償請求権を認めることを明記しました。
①履行不能
②履行拒絶意思の明確な表示
③契約解除
④債務不履行による契約解除権の発生
①は、履行期の前後を問いません。
②も、履行期の前後を問いません。また、「明確に表示」ですから、無催告解除の際に説明したように、単に、債務者が、口頭で履行しないと言うだけでなく、書面化して拒絶の意思を表示している場合や、繰り返し履行拒絶の意思を示している場合に限られると考えたほうが良いでしょう。
③は、契約解除された場合なので、当然認められます。
④は、契約解除ができる状態ですが、解除の意思表示をしていない場合、つまり、契約が継続している場合にも、てん補賠償請求権を認めています。
立証責任が債務者にあることからも、なおさら責任は重いですね。
冒頭の隣家からの失火の例であれば、売主に責任がないことを立証するのは、比較的容易ですが、隣室も、売主が所有していて、その一室を賃借する賃借人の火の不始末で延焼した場合は、どうでしょうか?
売主には、所有者として、延焼の防止措置をとるべき義務まで負うのか、問題になります。
売主に、帰責事由が認められるかは、事案によりけりのところであり、買主の損害賠償請求が認められるか、頭の悩ませどころとなりそうです。
今回の質問者はこちらの方
大田区で一番有名な司法書士を目指す小林彰先生
すでに達成している気もします。
私も参加している麻婆の会の事務局長(実質的なトップ)をつとめ、プライベートでも仲良くさせていただいているイケてる司法書士です。
※ 質問内容は架空のものです。
小林 彰
司法書士事務所ワン・プラス・ワン 代表司法書士
相続に強い司法書士
大田区池上にて、地域密着型の司法書士として営業しております。
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