
💸 「振り込まれなくなったのは、離婚して3ヶ月後でした」
「2回だけ振り込まれて、あとはぱったり来なくなりました」
沙織さん(仮名・34歳)は、スマートフォンの銀行アプリの画面を見せながらそう言いました。
離婚の際、元夫とは「子ども2人の養育費として月8万円を払う」と口頭で約束していました。
離婚届を出す前夜、リビングで向かい合って交わした約束です。
元夫も「わかった、必ず払う」と頷いていました。
しかし現実は、最初の2か月だけの支払い。
元夫に連絡しても「今は厳しい」「来月には払う」という返事が続き、気づけば半年が過ぎていました。
「あのとき、ちゃんと書面にしておけばよかった……」
沙織さんの後悔は、養育費トラブルで相談に来られる方が必ずと言っていいほど口にする言葉です。
⚖️ 養育費とは何か——親であり続ける限り、逃げられない義務
養育費とは、子どもを監護していない親(多くの場合、別居している親)が、子どもの生活・教育・医療にかかる費用を負担するお金です。
民法766条は、離婚の際に子の監護に要する費用の分担を定めることができると規定しています。
そして、養育費の支払いは、親としての法的義務です。
再婚したり収入が減ったりしたからといって、当然に支払い義務がなくなるわけではありません。
養育費の金額は、婚姻費用と同様に、裁判所が公表している養育費算定表をもとに決まります。
双方の年収と子どもの人数・年齢を表に当てはめると、裁判所が認める金額の相場が確認できます。
💡 口約束では足りない——取り決めに必要な「3つのステップ」
① 必ず書面にする
口頭での約束は、いざ支払いが止まったときに「言った・言わない」の水掛け論になります。最低限、離婚協議書として書面化することが必要です。
② 公正証書にする
離婚協議書をさらに公正証書にすることを強くお勧めします。
公正証書に「強制執行認諾条項」を入れておけば、支払いが滞った際に裁判を起こすことなく、直接強制執行の申立てができます。
この一手間が、後の「泣き寝入り」を防ぎます。
③ 取り決めの内容を具体的にする
「毎月いくら」だけでなく、以下の点も明記しておくことが重要です。
支払日(例:毎月末日までに振り込む)、支払い終期(例:子どもが大学を卒業するまで、など)、特別な費用の扱い(入学金・医療費などの分担)、支払いが遅れた場合の遅延損害金。
これらを曖昧にしたまま離婚すると、後々トラブルの種になります。
📋 令和6年民法改正で新設——「法定養育費」制度とは
令和8年4月1日施行の改正民法により、新たに法定養育費という制度が生まれました。
これは、離婚時に養育費の取り決めをしていなくても、子どもを主として監護する親が、他方の親に対して暫定的に一定額の養育費を請求できる制度です。
金額は子1人あたり月額2万円で、離婚した日から発生します。
また、養育費の支払いが滞った場合、従来は公正証書や調停調書などの「債務名義」がなければ差し押さえができませんでしたが、改正により父母間の取り決め文書に基づいて差し押さえができるようになりました(先取特権の付与。上限は子1人あたり月額8万円)。
ただし、この法定養育費制度はあくまで暫定的・補充的なものです。
月2万円という金額は、実際の養育にかかる費用からすれば十分ではありません。
きちんとした取り決めをすることの重要性は、改正後も変わりません。
なお、この制度が適用されるのは令和8年4月1日以降に離婚したケースに限られます。
🔥 払わない相手への対抗手段
① 強制執行——給与の差し押さえ
公正証書(強制執行認諾条項付き)または調停調書・審判書があれば、元夫の給与を差し押さえることができます。会社員であれば、勤務先に裁判所から通知が届き、給与の一部が直接支払われる仕組みです。
養育費の差し押さえには、通常の債権と異なる強力なルールがあります。将来分も含めて継続的に差し押さえることができるため、一度申立てをすれば毎月自動的に回収できる点が大きな特徴です。
② 履行勧告・履行命令(家庭裁判所)
調停や審判で養育費が決まっている場合、家庭裁判所に「履行勧告」を申し出ることができます。裁判所から元夫に対して支払いを促す連絡が入るため、心理的プレッシャーとして有効です。
さらに従わない場合は「履行命令」を申立てることもできます。
③ 公正証書がない場合——まず調停から
書面化せずに離婚してしまったケースでは、まず家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることになります。調停で合意が成立すれば調停調書が作成され、そこから強制執行が可能になります。
書面がないからといって諦める必要はありません。ただし、調停申立前の期間については認められないことも多いため、早めに動くことが重要です。
🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点
養育費は「もらえたらラッキー」ではなく、子どもの権利です
養育費の未払い問題は、日本の離婚件数に比して深刻です。取り決めをしていても支払われなくなるケース、そもそも取り決めをしないまま離婚してしまうケース。どちらも後を絶ちません。
私が強調したいのは、養育費は「元夫への請求」ではないということです。子どもが、自分の親から受け取るべき権利です。遠慮する必要も、諦める必要もありません。
そして、離婚の際に公正証書を作ることを面倒に感じる方もいます。
でも、公正証書なしで離婚して養育費が止まった後に調停・強制執行と進む道のりの方が、何倍も時間と労力がかかります。
離婚の条件を決めるその瞬間が、子どもの未来を守る最大のチャンスです。
養育費は、取り決めを残した人ほど守られます。
🌿 次回予告
「面会交流を拒否したら、養育費も払わなくていいと元夫に言われました」
面会交流と養育費は、法律上まったく別の問題です。次回は、面会交流をめぐるトラブルと、子どもを「交渉カード」に使おうとする元配偶者への対抗手段についてお話しします。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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