
🚪 午後2時、公園のベンチで
田中さん(仮名)は、腕時計を見た。
午後2時2分。
「少し遅れているだけかもしれない」
そう思って、立ち上がる。
午後2時8分。
遊具の方を何度も見渡す。まだ、あの黄色い帽子は見えない。
午後2時15分。
スマートフォンが鳴った。元妻からのLINE。
「今日は行きたくないと言っています。」
その一文だけだった。
鞄の中には、開かないままのシールブック。
離婚してから2年、月1回のこの時間だけを支えに生きてきた。最初の半年は、息子も笑顔で駆け寄ってきてくれた。
けれど最近、様子がおかしい。理由を聞いても、いつも同じ文面が返ってくるだけだった。
「会わせない」という選択に、法律は本当に無力なのだろうか。
⚖️ 面会交流は「権利」ではなく「子の利益」のための制度
まず整理しておきたいのは、面会交流は親の権利ではないということです。
民法766条は、離婚後の父母と子の交流について、こう定めています。
「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」
つまり出発点は常に「親が会いたいかどうか」ではなく、「子にとって会うことが利益になるかどうか」。この一文が、面会交流をめぐるすべての紛争の土台になります。
協議が調わない場合は、家庭裁判所が審判で交流の方法・頻度・場所を定めます(民法766条2項)。さらに審判に至る前の段階でも、家庭裁判所調査官が試行的に面会交流に立ち会う運用があり、実際に子の反応を見ながら判断していくのが実務の流れです。
面会交流を拒否されたら、何ができるのか
取り決めがあるにもかかわらず相手が応じない場合、次の手段が検討されます。
- 履行勧告(家庭裁判所からの是正の働きかけ。強制力はない)
- 間接強制(「会わせなければ1回につき○万円支払え」という形で心理的圧力をかける)
ここで多くの相談者が驚くのが、間接強制が認められるには面会交流の内容が「特定」されている必要があるという点です。
「月1回程度」「別途協議して定める」といった曖昧な取り決めでは、間接強制の申立ては通りません。日時・場所・方法まで具体的に決まっていて初めて、この手段が使えるのです。
💔 「決まり」があっても、「現実」は動かせないことがある
ここからが、田中さんのような相談者が最も苦しむ現実です。
間接強制で「お金を払え」という命令は出せても、子ども本人を無理やり親の前に連れてくることまでは強制できません。
もっとも、これは制度が無力だという意味ではありません。
実際には、間接強制が認められることで相手方が態度を改め、面会交流が再開するケースも少なくありません。金銭的な負担という現実の圧力が、膠着した状況を動かす引き金になることは実務上よくあります。
一方で、それでも子ども本人の拒絶が強い場合には、裁判所もそれ以上の実現を強制することはできません。子の年齢が上がるほど、裁判所は「子の意思」を重視します。
10歳前後から意見が尊重され始め、思春期にもなれば、子自身の「会いたくない」という言葉が、取り決めより重く扱われることも珍しくありません。
もちろん、他方親について不当な否定的言動を繰り返し、子との関係を意図的に阻害しているような事情がある場合には、親権者変更や監護者指定の申立てなど、別の法的手段を検討する余地があります。しかし、それすら「子の福祉」というフィルターを通さなければ認められません。
「養育費は払っているのに、なぜ会わせてもらえないんだ」という声を、私は何度も聞いてきました。しかし法律上、養育費の支払いと面会交流の実施は、別個の問題として扱われます。
「お金さえ払えば会えるはず」という発想は、この制度の前では通用しません。
🐯弁護士佐藤嘉寅(とら先生)の視点
面会交流の相談で、私が最初に伝えることがあります。
「これは、あなたが子どもに会う権利を取り戻す手続きではありません。子どもが、あなたに会いたいと思える関係を、もう一度作り直す手続きです」
取り決めを紙の上で固めることは、スタートラインに過ぎません。第三者機関(面会交流支援団体)を間に挟む、無理に感情をぶつけず子どものペースを尊重する。そうした地道な積み重ねができる親が、結果的に長く安定した交流を続けられています。
「会わせろ」と叫ぶ親より、「会いたいと思われる」努力をした親が、子どもの心を取り戻します。
法律は、親子が再び向き合うための「扉を開ける鍵」を渡してくれます。
しかし、その扉の向こうで子どもが笑顔で待っていてくれるかどうかは、法律では決められません。日々の積み重ねと、子どもを思う姿勢こそが、その扉の先につながる道なのです。
面会交流は、法律だけでは解決できない問題だからこそ、初めの取り決めや、その後の対応が将来を大きく左右します。お一人で抱え込まず、早い段階で専門家に相談することが、親子双方にとってより良い解決につながることも少なくありません。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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