法改正トピック|2020年民法改正(令和2年4月1日施行)
Businessman in a dark suit speaks on a telephone inside, with a flooded harbor and warehouses visible through a window behind him.

🌊 台風一過の空の下、明かされた「裏切り」

「申し訳ありません。お預かりしていた冷凍マグロ、全滅です」

大型台風が過ぎ去った翌朝。
マイルロジティクス社(仮称「M社」)担当者から城南水産社(仮称「J社」)の代表である私に電話があった。
電話口から聞こえてきた彼の声は、小刻みに震えていた。 私は、受話器を握りしめたまま、窓の外の晴れ渡った空を見上げた。

「全滅? ……何を言っているんだ。お宅の倉庫は高台にある最新鋭の冷凍庫だろう。昨夜の高潮など、届くはずがないじゃないか」

私がM社を選んだ理由は、まさにその「安全性」にあった。
安かろう悪かろうの業者とは違う。だからこそ、決して安くはない保管料を払ってきたのだ。

しかし、返ってきたのは、耳を疑うような言葉だった。

「……実は、ここ数ヶ月、弊社の倉庫が満杯の状態が続いておりまして。社長のお荷物は、海沿いにあるリング物流(仮称「R社」)の倉庫に移していたんです。そこが、昨夜の高潮で浸水してしまい……」

思考が一瞬、停止した。 R社? どこの会社だ? そんな話は聞いていない。

「待ってくれ。私は貴社を信頼して契約したんだ。リング物流での保管など、一度も説明を受けていないぞ」
「はい……ですが、緊急措置といいますか、やむを得ず……」
「しかもリング物流は、今回の被害で破産手続きに入ると聞いています。ですから、弊社としても手の打ちようが……なにぶん、相手は『天災』ですので」

天災。 その言葉を聞いた瞬間、腹の底から冷たい怒りが湧き上がってくるのを感じた。

もし、契約通りM社の倉庫に置いてあれば、私の商品は無傷だったはずだ。
勝手にリスクの高い場所へ移し、勝手にダメにした。
それを今、「台風のせい」にして逃げようというのか。

「……天災で済ませるつもりか? 違うだろう。これは、あんたたちが招いた『人災』だ」

⚖️ 【解説】「天災だから不可抗力」は通じない。無断寄託が招く“全額賠償”の根拠

原則、「無断での再寄託」は契約違反

結論から申し上げますと、寄託者の主張は法的に正当であり、M社への損害賠償請求は認められる可能性が高いです。

物を預かる契約を「寄託契約」と呼びますが、これは「あなた(M社)だから預ける」という人的な信頼関係がベースになっています。
そのため、改正民法658条では、受寄者(M社)が勝手に第三者(R社)に預ける「再寄託」を原則として禁止しています。

再寄託ができる例外(民法658条2項)
  1. 寄託者(A社)の承諾を得たとき
  2. やむを得ない事由があるとき

今回、M社はA社に「承諾」を得ていません。 また、「自社の倉庫が満杯だから」という理由は、あくまでM社の経営上の都合であり、法的な「やむを得ない事由(震災で自社倉庫が倒壊したなど)」には当たりません。

つまり、M社の行為は「無断再寄託」という明白な契約違反にあたります。

(寄託物の使用及び第三者による保管)
第六百五十八条 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用することができない。
2 受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない。
3 再受寄者は、寄託者に対して、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利を有し、義務を負う。

:「台風だから不可抗力」という反論は通るか?

通常、台風や高潮などの自然災害は「不可抗力」とされ、倉庫業者は責任を免れるケースが多いです。
しかし、今回は「無断再寄託」があった点が決定的な違いになります。

もし、M社が契約通り自社の(高台にある)倉庫で保管していれば、マグロは無事だったはずです。
M社が独断で、よりリスクの高いR社の倉庫に移したことによって損害が発生した以上、M社は「不可抗力」を主張することはできません。

R社の資力(破産)は関係ありません。 A社は、契約相手であるM社に対して、「契約違反(債務不履行)による損害賠償」として、マグロの代金相当額を請求すべきです。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

「友人に貸した車」が、知らない場所で事故に遭ったら

この問題、身近な例で考えると構造がよく分かります。
あなたが、信頼できる友人Bに愛車を貸したとします。 ところがBは、あなたに無断で、運転の不慣れなCにその車を又貸ししました。 そしてCが雨の日にスリップ事故を起こし、車を大破させたとします。

Bが「いやー、雨が降っていたから不可抗力だよ。俺は悪くない」と言い訳しても、到底納得できませんよね。
 「そもそも君に貸したんだ。Cに又貸ししなければ、この事故は起きなかったはずだ」と反論するのが筋です。

寄託契約も同じです。 ビジネスにおいて「場所がないから」と安易に下請け倉庫を使う業者は存在しますが、事前の承諾がない限り、そのリスクは全て業者が負うべきものです。

ただし、注意点が一つ。 もし過去の請求書やメールに「保管場所:R社倉庫」といった記載があり、J社がそれに異議を唱えず取引を続けていた場合、黙示の承諾があったとみなされるリスクがあります。
交渉の前に、過去のやり取りを一度精査することをお勧めします。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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