【債権者代位権】相手方の言い訳(抗弁)と債務者との関係性で債権者代位権による回収がうまくいかない場合の具体例

野崎秀史先生

寺林先生の顧問先A会社は、うまく債権回収できたと聞きました。実は、うちの顧問先D会社も、E会社に対する売掛金が回収できなくて困っています。先日、E会社の経理担当者が解雇され、話を聞くことができたんですが、E会社のF社長は、会社からお金を借り入れたことにして豪遊していたそうです。E会社のF社長に対する貸付金債権を、代位行使して、D会社のE会社に対する売掛金を回収できませんか?

債権者代位権を行使するには、まず、E会社が無資力の要件を満たしているかが問題となります。次に、第三債務者であるF社長は、当然、D会社と敵対関係にありますから、裁判外で回収することは困難で、訴訟提起が前提になります。加えて、債権者代位権を行使しても、E会社は、F社長に対する貸付金の請求ができるし、F社長からE会社に対し、弁済することも妨げられないんです。だから、債権者代位権を使っての回収はできないと思います。仮差押えをしても、F社長は、E会社に対する借金はないと言って誤魔化す可能性が高いでしょう。F社長から回収するのは難しいでしょうね。

債権者代位権に対する相手方の抗弁

債権者は、債務者が無資力であるとき、債務者の第三債務者に対する債権を、代位行使できる権利(債権者代位権)があることは、前回、説明しました。
この際、相手方(第三債務者)は、債務者に対して主張できる抗弁を債権者に対抗できます(423条の4)。

相談事例で言えば、F社長は、E会社に対して、役員報酬の未払いがあれば、この請求をして相殺の抗弁を主張できますし、また、E会社とF社長の間で、借入金について、長期分割弁済の合意があれば、その合意にしたがった回収しかできません。
要は、債務者と相手方(第三債務者)が密接な関係を有していれば、いくらでも誤魔化せるということです。

(相手方の抗弁)
第四百二十三条の四 債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。

債権者の取立てその他の処分の権限など

改正民法では、債権者が、被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、自ら取立てその他の処分をすることができること、また、相手方(第三債務者)も被代位権利について、債務者に対して履行ができることが明示されました(423条の5)

相談事例で言えば、E会社は、F社長に対し、貸付金を返せと言えるし、また、F社長も、E会社に対して、借金の返済ができるということです。

この点、旧民法下の判例では、債権者が、代位行使に着手し、債務者が代位行使をした旨の通知を受けるか、その権利行使を知ったときは、債務者は、被代位権利の取立てその他の処分の権限を失うものとされていたのとは、真逆の効果となったため、注意が必要です。

結局、債権者が、債務者の相手方(第三債務者)に対する権利行使を妨げ、相手方(第三債務者)から債務者の弁済を禁じるには、仮差押えをすることが、本来の姿ということになります。

(債務者の取立てその他の処分の権限等)
第四百二十三条の五 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。

被代位権利の行使にかかる訴えを提起した場合の訴訟告知

債権者が、裁判上の訴えで、債権者代位権を行使した場合、債権者の立場は、法定訴訟担当(法律の規定によって第三者に当事者適格が認められる場合)となり、判決の効力は、敗訴の場合も含めて、債務者に及ぶとされています(民事訴訟法115条1項2号)。

債務者としてみれば、自分の知らないところで、訴訟追行され、自身の相手方(第三債務者)に対する請求権が認められないとして、敗訴してしまえば、泣くに泣けません。
この点、旧民法下では、債権者に債務者に対する訴訟告知を義務付けた規定がなく、債務者の手続き保障の点から問題視されていましたが、改正民法では、訴訟告知を義務化しました(423条の6)。

訴訟告知とは、当事者が、訴訟の対象となる紛争に関係する第三者に対し、訴訟が係属している事実を通知し、被告知者たる第三者に訴訟への参加を促し、被告知者が訴訟に参加しなかった場合にも、訴訟告知を行った当事者(告知者)が敗訴した判決の効力を被告知者に及ぼすことができる制度を言います(民事訴訟法53条)。
訴訟告知をうけた債務者は、自ら、相手方(第三債務者)に対し、債権の履行を求める共同訴訟参加も可能となります。

(被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知)
第四百二十三条の六 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。

民事訴訟法(訴訟告知)
第五十三条 当事者は、訴訟の係属中、参加することができる第三者にその訴訟の告知をすることができる。
2 訴訟告知を受けた者は、更に訴訟告知をすることができる。
3 訴訟告知は、その理由及び訴訟の程度を記載した書面を裁判所に提出してしなければならない。
4 訴訟告知を受けた者が参加しなかった場合においても、第四十六条の規定の適用については、参加することができた時に参加したものとみなす。
 
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 (略)
四 (略)

とら先生ぷちコラム
債権者代位権は、一見、使い勝手の良い制度に思えますが、改正民法では、債権者が債権者代位権を行使しても、債務者が、被代位権利について自ら取立てができることが明示され、相手方(第三債務者)が、債務者に履行することも可と明示されましたので、相談事例のような債務者と相手方(第三債務者)が密接な関連にあるような場合、債権者代位権が実効性を有するものにはなりえません。
債権者代位権が実効性をもつ場合とすれば、債権者と相手方(第三債務者)が懇意の中で、債権回収に協力的な場合、また、債務者が行方不明で、債務者から相手方(第三債務者)に対する請求権があることは明らかであるが、債務者による回収が期待できない場合といった特殊な事情がある場合に限られることになるでしょう。
ただ、実効性をもって行使できる場合が限定的ではありますが、要件を満たせば、直接、債務者の権利を相手方(第三債務者)に行使できるのですから、債権回収の選択肢の一つとして有力な手段であることは間違いありません。
 
 

今回の質問者はこちらの方

社会保険労務士の仕事をされている野崎秀史先生
50人未満の会社をターゲットにしてるそうです。
初対面で、日本酒を次々に飲ませられたのは、今では良い思い出です。それ以来、定期的に酒席を共にする仲となりました。
はじけたキャラクターと思わせながらも、実は、家族が一番大事というギャップも素敵です。
顧問先の会社もきっと大事にしてくれると思います!

※ 質問内容は架空のものです。

野崎 秀史

東京で1番親切、丁寧、スピーディーを目指す社会保険労務士

野崎社会保険労務士事務所 代表 

50人未満の会社の社会保険〜給与計算ならおまかせ!

平成15年7月に野崎社会保険労務士事務所を開設
親切、丁寧、スピーディーをモットーに50名未満の会社様を中心に給与計算、社会保険手続き、助成金の手続きをバックアップさせて頂いております。

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文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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