
💼 「私には、もらう権利なんてないと思っていた」
「結婚してからずっと専業主婦だったから……財産分与って、私にはあまり関係ないのかなと思っていました」
咲子さん(仮名・47歳)は、少し恥ずかしそうにそう言いました。
20年以上、夫の転勤に合わせて引っ越しを繰り返し、子どもを育て、家を守り続けた日々。
その間、夫の年収は着実に上がり、自宅マンションも購入し、証券口座にはそれなりの資産が積み上がっていました。
でも咲子さんは、それを「夫が稼いだお金」だと思っていました。
「私は働いていないから、もらえても少しだけかな、と」
その言葉を聞いて、私は静かに首を横に振りました。
咲子さん、それは大きな誤解です。
⚖️ 財産分与「2分の1ルール」——専業主婦でも堂々と半分もらえる理由
民法768条は、離婚した一方が相手に財産分与を請求できると定めています。
そして実務上確立されているのが、婚姻中に築いた財産は、原則として2分の1ずつ分けるというルールです(もっとも、経営者や高額所得者など特殊な事案では、寄与度割合が修正される場合があります)。
なぜ、働いていない専業主婦が半分もらえるのでしょうか。
裁判所の答えはシンプルです。
「家庭を支えることも、財産形成への立派な貢献である」
夫が外で稼げたのは、妻が家事・育児・介護を引き受けてくれたからです。
その貢献は、給与明細には現れませんが、法律はきちんと評価しています。結婚生活は「共同事業」であり、その成果は原則として折半——これが2分の1ルールの本質です。
なお、これまでは離婚後2年で財産分与の請求権が消えていましたが、令和6年5月成立の改正民法により、その期間が5年へ延長されました。離婚を急いで決めてしまったあとでも、5年以内であれば請求できる時代になっています。
改正民法は、令和8年4月1日から施行されているため、同日以降に離婚した場合は、5年。それ以前に離婚した場合は、2年です。
🏦 「夫名義だから夫の財産」は間違い
財産分与でよく見られる誤解があります。「銀行口座も不動産も夫名義だから、全部夫のもの」というものです。
しかし、名義は関係ありません。婚姻中に夫婦が協力して形成した財産であれば、名義がどちらであっても共有財産として分与の対象になるのが原則です。
「夫名義の口座にある預金は触れない」と思い込んでいる方ほど、実際には大きな権利を持っています。
💡 何が分与の対象になるのか——「共有財産」と「特有財産」の線引き
ただし、すべての財産が2分の1の対象になるわけではありません。
分与の対象になるもの(共有財産)
婚姻中に夫婦が協力して築いた財産が対象です。夫名義であっても関係ありません。預貯金、自宅不動産、株式・投資信託、退職金(婚姻期間に対応する部分)、生命保険の解約返戻金などが該当します。
分与の対象にならないもの(特有財産)
結婚前から持っていた財産、婚姻中に相続や贈与によって取得した財産は、原則として分与の対象外です。「結婚前の貯金で買った車」「親から相続した土地」などがこれにあたります。
争いになりやすいのは、特有財産と共有財産が混在している場合です。
たとえば「結婚前の貯金100万円と、婚姻後の給与を合わせてマンションを購入した」ケースでは、どこまでが共有財産かを丁寧に立証していく必要があります。
🔍 「財産を隠されているかもしれない」——そのときの対抗手段
「夫の財産が本当にそれだけなのか、正直わかりません」
咲子さんのように、家計の実態を把握していない妻は少なくありません。そして、離婚を切り出した直後から財産を隠したり、移したりするケースが少なくありません。
だからこそ、別居前に自分で動くことが、何より有効な対策です。
通帳のコピー、証券口座の残高画面、不動産の登記簿、源泉徴収票——手元にある資料は、別居前に静かに確保しておくことが鉄則です。
弁護士会照会や裁判所の調査嘱託といった制度も存在しますす。
しかし、実際には金融機関が開示に慎重な対応を取ることも少なくなく、必ずしも期待した情報が得られるとは限りません。
制度を過信せず、自分の手で証拠を押さえておくことが、最も確実な方法です。
🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点
「もらえないかも」と思い込んでいる人ほど、実は損をしています。
相談に来られる方の中に、咲子さんのように「専業主婦だから少しでももらえれば十分」と最初から譲歩してしまう方がいます。
でも、2分の1ルールは「謙虚な人には適用されない」ルールではありません。請求しなければ、権利はあっても何も手に入らないのです。
財産分与は、離婚の話し合いと同時並行で進めることが鉄則です。「離婚してから考える」では、手元に残るものが大きく変わってしまいます。
財産は、知っている人のもとに残ります。
🌿 次回予告
「会社を経営している夫との離婚。財産分与って、どうなるの?」
役員報酬、会社名義の財産、株式——サラリーマンの夫との離婚とはまったく異なるルールが適用されます。次回は、経営者・オーナーとの離婚で直面する「財産分与」についてお話しします。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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