離婚後の再出発に「学び直し」を──弁護士が勧める、リスキリングという選択肢

離婚は人生の大きな転機です。
離婚はしたいけれど、離婚することにより経済的に生活が成り立たなくなるのではないかとの不安も多く聞かれます。
そのため、実際には婚姻関係は破綻しているのに、離婚に踏み切れない方も多くいらっしゃいます。
しかし、いずれは離婚裁判により離婚せざるを得ない状況になる可能性もあるのです。
弁護士として、単に、離婚が認められれば良いのではなく、その後の暮らしをどう立て直していくか──これこそが、真の意味での「離婚支援」だと私は考えています。
このブログでは、離婚後の生活再建に悩む方々に向けて、「リスキリング」という選択肢をご紹介します。
これは、経済産業省が主導する【リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業】という制度で、「学び直し」を通じて、転職やキャリア形成を後押しする仕組みです。
制度自体は離婚者に限定されたものではありませんが、離婚を経た“再出発”の場面において、とても親和性の高い支援策だと感じています。
📚 リスキリングとは?
リスキリングとは、簡単に言えば「社会人の学び直し」です。
とくに近年は、AIやDXなど新たなスキルに対応する講座が多く開講されており、転職・キャリアアップを見据えた選択肢として注目されています。
本来、リスキリングは企業が人材を社内で再活用するための施策として生まれた概念ですが、現在では、転職や再就職を目指す個人が“自分のキャリアを再構築する手段”としても活用されるようになっています。
以下に、「企業内リスキリング」と今回ご紹介するような「個人主導の転職型リスキリング」の違いをまとめてみました。
📊 企業内と個人主導のリスキリングの違い
項目 | 企業内リスキリング | 個人主導・転職型リスキリング(本制度) |
---|---|---|
主体 | 企業(人事戦略の一環) | 個人(自分のキャリア形成) |
目的 | 社内での配置転換や業務効率化 | 転職・キャリアチェンジを目指す |
支援内容 | 社内教育・OJT中心 | 外部講座+転職コンサルティング |
制度的支援 | 厚労省「人材開発支援助成金」など | 経産省「キャリアアップ支援事業」 |
本質的思想 | 社内での“労働力最適化” | 社会全体の“産業間人材移動” |
経済産業省の本制度では、以下の3つのサービスが一体となって提供されます。
- キャリア相談(無料)
- リスキリング講座(受講費 最大70%補助)
- 転職支援(無料)
💡 どんな支援があるのか?
まず受講料の50%(上限40万円)までが補助対象となり、さらにその講座を受講して転職し、1年以上継続勤務すると、追加で20%(上限16万円)の補助が受けられます。
つまり、最大で受講料の70%(上限56万円)が支援される、非常に手厚い制度です。
また、制度のスタート地点がキャリアカウンセリングにある点も特筆すべき点です。「何を学べばいいか分からない」「何が自分に向いているのか知りたい」といった方にも、安心して相談できる設計になっています。
🎯 対象となる人は?
この制度は「転職を目指す在職者」を対象としています。正社員はもちろん、契約社員・パート・アルバイトなど、雇用契約があれば幅広く該当します。
ただし、フリーランス・自営業・業務委託契約の方は対象外ですのでご注意ください。
のキャリアや目的を明確にし、誠実な姿勢で申請に臨むことが大切です。
🔍 離婚後のキャリア再構築に“効く”理由
繰り返しになりますが、この制度は離婚者限定ではありません。
しかし、私たちの実務経験から言っても、離婚という人生の転機は、働き方やキャリアの軌道修正を考える絶好のタイミングです。
たとえば:
- 今の職場では先が見えない
- 正社員として働きたい
- 在宅でできる仕事に転職したい
こうした悩みや願いに直面したとき、「学び直し」という選択肢が大きな力になることがあります。
それは収入の安定という経済面だけでなく、「まだできることがある」という実感、そして子どもたちに見せられる“背中”にもつながっていくのです。
📌 制度の背景──なぜ国が「学び直し」を支援するのか?
この制度は、2022年度の補正予算をもとに創設された「人への投資」政策の柱のひとつです。
背景には、日本社会全体が抱える以下のような課題があります:
- 人口減少
- 中堅層のスキル陳腐化
- デジタル人材の不足
国としては、こうした構造課題に対応すべく、「人材の再配置」「成長分野への労働移動」を推進する必要がありました。
その流れの中で生まれたのが、単なる就職支援ではなく「キャリアの再構築」を支援するリスキリング制度なのです。
特に30〜40代の非正規雇用層、女性の再就労、育児・介護との両立などにおいて、大きな可能性を持つ仕組みだと感じています。
📝 最後に──年齢や環境に縛られず、一歩を踏み出す
「もう年齢的に厳しいかも」「子育て中で両立できるか不安」──そう思う方もいるかもしれません。
でもこの制度は、過去ではなく「これからどうしたいか」に光を当てる設計になっています。
離婚後の自立やキャリア再構築を考えている方にとって、きっと“最初の一歩”を後押ししてくれる制度になるはずです。
少しでも興味を持たれた方は、まずはキャリア相談からでも、気軽に踏み出してみてください。
※制度の詳細は、経済産業省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」公式サイトをご確認ください。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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