Businesswoman in a dark blazer sits at a desk, facing a man in a suit in a wood-paneled office with documents on the desk.

💼「夫の財産は、ほとんど会社名義なんです」

「夫は会社を経営しているんですが……財産らしい財産が、個人名義にはほとんどないんです」

由美さん(仮名・52歳)は、手元の資料を見つめながらそう言いました。
結婚28年。夫は中小企業のオーナー社長で、会社は順調に成長してきました。
自宅は会社名義、車も会社名義、夫が毎月受け取るのは「役員報酬」という名目のお金。

個人の銀行口座の残高だけを見れば、とても会社が繁盛しているようには見えません。

「個人名義の財産が少ないから、財産分与はほとんどもらえないって言われたんですが……本当にそうなんですか?」

由美さんの問いは、経営者との離婚で最もよく聞かれる問いです。
そして答えは、「一概にそうとは言えません。ただし、簡単でもありません」です。

⚖️サラリーマンとオーナー社長——財産分与が「別次元」になる理由

サラリーマンの夫との離婚では、預貯金・不動産・退職金など、比較的わかりやすい財産を2分の1で分けるのが基本です。

しかし、オーナー経営者との離婚では、「個人財産」と「会社財産」の境界線がどこにあるかが最大の争点になります。

裁判所は、法人と個人の財産は原則として別のものとして扱う傾向が強く、会社名義の財産をそのまま財産分与の対象とすることは容易ではありません。
オーナー社長の財産は、会社と個人の関係を丁寧に分析しなければ全体像が見えません。

また、会社の売上が大きいからといって、必ずしも財産分与が大きくなるわけではありません。借入金や保証債務なども含めて会社の実態を確認する必要があります。

💡 経営者離婚で問題になる「3つの財産」

① 役員報酬——「いくら稼いでいるか」の評価

役員報酬は、サラリーマンの給与に相当します。婚姻費用や養育費の算定においては、役員報酬の額が基準になります。

ただし、オーナー社長は自分で役員報酬の額を決められます。離婚を見越して報酬を意図的に下げるケースがあるため、過去の報酬額や会社の売上・利益との整合性を確認することが重要です。

② 会社株式——「会社そのものの価値」をどう評価するか

オーナー社長が保有する株式は、その取得時期や形成過程によって扱いが異なります。
婚姻後に取得した株式は財産分与の対象となり得ますが、結婚前から保有していた株式についても、婚姻期間中の企業価値の上昇をどのように評価するかが問題となることがあります。

非上場会社の株式には市場価格がないため、株式の評価方法(純資産方式・収益還元方式など)によって金額が大きく変わります。専門家による株式評価が必要になるケースも少なくありません。
株式そのものではなく、評価額に相当する金銭で代償するという解決方法が実務上は多く採られます。

③ 会社名義の財産——株式価値の評価に影響することがある

会社名義の財産そのものが財産分与の対象になるわけではありません。
ただし、会社名義の不動産や資産の存在が、株式価値や収益力の評価に影響することがあります。

🔍 経営者離婚で「財産を正確に把握する」ための方法

サラリーマン家庭と異なり、経営者との離婚では財産の全容が見えにくいのが現実です。

最も有効なのは、別居前に手元にある資料を確保しておくことです。

確保しておくべき資料としては、会社の決算書(直近3期分)、法人税申告書、夫個人の確定申告書、役員報酬の明細、会社名義の不動産登記簿などが挙げられます。これらは後から入手が難しくなるケースがあるため、手元にある段階で静かに確保しておくことが鉄則です。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

「会社があるから財産分与はもらえない」とも、「会社があるから財産分与は多い」とも、簡単には言えません

由美さんのように、夫から「会社の財産だから関係ない」と言われて諦めかけている方を、私はこれまで何人も見てきました。

一方で、「夫は社長だから財産分与はたくさんもらえるはず」と期待しすぎて、現実とのギャップに苦しむ方も少なくありません。

裁判所は形式的な名義だけでなく、財産形成の実態も踏まえて判断します。
しかし同時に、法人と個人の財産は原則として別のものです。この両面を理解した上で、冷静に戦略を立てることが不可欠です。

経営者との離婚で私が特に強調したいのは、早期に専門家へ相談することの重要性です。
財産の評価方法、株式の扱い、役員報酬の実態把握——これらはいずれも高度な専門知識を要します。動き出すタイミングが早ければ早いほど、結果が変わります。

「会社があるから」は、諦める理由にも、過度に期待する理由にもなりません。

🌿 次回予告

「夫が払ってくれると口約束していた養育費、離婚後まったく振り込まれなくなりました」

口約束だけでは、いざというときに証明が難しいのが現実です。
次回は、養育費を確実に受け取るための取り決め方と、払わない相手への強制執行の現実についてお話しします。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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