
🥀 「一生、罪を償いなさい」という終わらない罰
「私が浮気をしたのが悪いんです。でも、もう限界で……」 美紀さん(仮名・40代)は、うつむきながらそう絞り出しました。
2年前、美紀さんは取り返しのつかない過ち——不倫をしてしまい、夫に土下座をして謝罪しました。
夫は「今回だけだぞ。子供のためにやり直そう」と許してくれ、その後数ヶ月は、かつてのように平穏な夫婦生活が戻ったように見えました。
しかし、夫の態度は徐々に変わっていきました。 美紀さんのスマホを毎日チェックし、不倫相手とは完全に縁を切っているのに「今日もあいつと会ってたんだろ!」と深夜までなじり続ける日々。
さらに夫は、美紀さんに何の相談もなく勝手に会社を辞め、自営業を始めてしまったのです。
生活も不安定になり、終わりのない監視と暴言に耐えきれなくなった美紀さんが「もうやり直せない。離婚してほしい」と切り出すと、夫は冷たく言い放ちました。
「ふざけるな。お前は不倫をした『有責配偶者』だ。お前からの離婚請求なんて、裁判所が認めるわけないだろ。一生俺のそばで罪を償え」
過去に不倫をした側は、本当に一生、相手の理不尽な振る舞いに耐え続けなければならないのでしょうか?
⚖️ 法律の現実:「宥恕(ゆうじょ)」が有責性を消し去る瞬間
第1回でお話しした通り、自ら不倫などをして婚姻関係を破綻させた側(有責配偶者)からの離婚請求は、原則として認められません。
【新連載:後悔しない離婚の羅針盤】第1回:「不倫した側」からは一生離婚できないのか?
昭和62年最高裁判決が変えた“地獄の縁”の断ち切り方 🍸 5年目の沈黙、届かない署名 「もう、解放してくれないか」都内のカフェ。不倫の末に家を出て5年になる誠一さん(仮名・45歳)は、目の前に座る妻に頭を […]
夫が「お前からの離婚は無理だ」と言い張るのには、一見すると法的な根拠があるように思えます。
しかし、ここで運命を分けるのが「宥恕(ゆうじょ)」です。
これは「相手の過ちを許すこと」を意味します。
過去の実際の裁判(東京高裁 平成4年12月24日判決)で、これと酷似したケースが争われました。
裁判所は、次のように判断し、「不倫をした妻」からの離婚請求を認めたのです。
本件において、既に認定したところによれば、被控訴人は、控訴人の丙川との不貞行為について宥恕し、その後四、五か月間は通常の夫婦関係をもつたのであるから、その後夫婦関係が破綻するに至つたとき、一旦宥恕した過去の不貞行為を理由として、有責配偶者からの離婚請求と主張することは許されず、裁判所もこれを理由として、本訴請求を有責配偶者からの離婚請求とすることは許されないというべきである。
東京高判平成4年12月24日判例時報1446号65頁」
つまり、夫が一度「許す」と決めて数ヶ月でも通常の夫婦生活(同居や性交渉など)を送った以上、法的には過去の不倫は「離婚を拒むための無敵の盾」としては使えなくなるのです。
💡 婚姻関係が現時点で実質的に破綻しているか
過去の不倫は、すでに「宥恕」によって法的な評価から外れています。
問われるべきは、「夫婦関係が実質的に破綻しているのか」という現在の事実です。
ありもしない不貞を疑い続けて妻を精神的に追い詰め、勝手に仕事を辞めて生活の基盤を揺るがした。
結局、婚姻関係は、実質的に破綻していると法的には評価されたのです。
🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点
過去の十字架を、一生背負わせることも、背負い続けることもできない
裁判例は、女性が不貞をした事案でしたが、男女どちらの立場でも同じ問題は生じ得ます。
確かに、過去の不倫という事実は消えませんし、反省すべきことです。
しかし、法律は「一度ミスをした人間を、一生配偶者のサンドバッグとして縛り付ける」ようなことはしません。
今回の判例は、夫婦の双方に重い教訓を突きつけています。
- 「許した側」の方へ
一度「許す」と決めて同居を再開したなら、その過去をずっと攻撃の武器にし続けることはできません。どうしても許せないなら、安易に同居を再開すべきではありません。 - 「許された側」の方へ
過去の過ちの責任は重いですが、それは「一生、理不尽な扱いに耐えなければならない」という意味ではありません。「宥恕」の事実があり、客観的に婚姻関係が実質的に破綻していると評価できれば、法律は新しい人生への道を閉ざしはしません。
「罰としての結婚」を続けるのか、それとも「現実として整理する」のか。 感情だけで動かず、まずは専門家と一緒に、現在の法的な立ち位置を冷静に見極めることが大切です。
🌿 次回予告
「妻とはもう終わっているんだ。完全に家庭内別居だから」
既婚者のそんな言葉を信じて関係を持った不倫相手から、「私は悪くない。慰謝料は払いません」と反論されたら……?
次回は、不倫トラブルで最も多い言い逃れ「婚姻関係の破綻」について。最高裁が認めた“例外ルール”と、それを打ち砕く法廷の冷酷な現実を解説します。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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