法改正トピック|2020年民法改正(令和2年4月1日施行)

🗑️ 投げ出された仕事と、送りつけられた「謎のデータ」

「別府さん、もういいです。契約はここで終わりにしましょう」

私は、電話口でそう告げるのが精一杯でした。
元請けである私が、クライアントのハーモニア社(仮称)に頭を下げて回ったのは、これで何度目だったでしょうか。

経営コンサルタントの別府氏(仮名「B氏」)に委託していたのは、「新規事業の経営企画書」の作成でした。
当初、彼は「任せてください。完璧なロードマップを描いてみせます」と自信満々に語っていました。

しかし、蓋を開けてみれば、「他の案件が忙しい」「体調が優れない」と、言い訳のオンパレード。
納期は過ぎ、肝心の企画書は白紙のままです。

これ以上待てば、私の会社の信用まで失墜してしまう――。
私は断腸の思いで、彼との契約を打ち切りました。

その後、徹夜続きでなんとか自社で企画書を仕上げ、無事に納品を終えました。
ところが、その矢先のことです。

B氏から一通のレターパックが届きました。
中に入っていたのは、請求書と、一本のUSBメモリ。

(……せめて、途中まで作った資料でも送ってきたのか?)

わずかな期待を込めて、私はPCにUSBを差し込みました。
しかし、画面に表示されたファイルを見て、言葉を失いました。

そこにあったのは、『ネットで拾ってきたような市場データの羅列』『「アイデアメモ」と題された、主語も述語もない殴り書きのテキスト』
分析もなければ、戦略もない。断片的な情報の“ゴミ山”でした。

震える手で、同封されていた請求書に目を落とします。

「企画書は未完成ですが、リサーチ業務および構想の8割は完了しています。よって、約定報酬の8割を請求いたします」

思わず、天井を仰ぎました。

「ふざけるな……。こんな解読不能なメモ書きに、8割もの価値があるというのか?
これに金を払えというのか?」

⚖️【解説】「努力」ではなく「価値」で判断せよ。中途終了時の報酬ルール

⚔️ポイントは「どれだけ働いたか」ではない

まず、法律の原則を確認しましょう。
改正民法648条3項は、委任契約が中途で終了した場合について、
受任者(コンサルタント)は、「既にした履行の割合に応じて」報酬を請求できると定めています。

ただし、この「割合」は、単なる作業時間や、本人の主観的な“頑張り”で決まるものではありません。
特に、コンサルティングのような知的業務では、決定的な判断基準があります。

その途中成果物は、発注者にとって利益(価値)があるか?

建設工事(請負)であれば、作りかけの壁でも「次の業者が続きを施工できる」ため、価値が認められやすいでしょう。
しかし、コンサル業務の途中経過は違います。
メモや断片的なデータは、『本人以外には解読不能』『結論がなければ実務に使えない』というケースが少なくありません。

もし、B氏の成果物が、『次の担当者が引き継ぎ』『そのまま実務に使える状態』であれば、一定の報酬を支払う必要があります。

しかし、本件のように「ただのメモで、使い物にならない」のであれば、委託者が受ける利益はゼロであり、報酬が発生しない(あるいは極めて低額になる)可能性が高いといえます。

※なお、「履行の割合」は事案により評価が分かれますが、コンサル業務のように成果の価値が不明確な場合、実務上は「引き継いで使えるか(利用可能性)」が最重要の評価軸になります。

(受任者の報酬)
第六百四十八条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。

⚔️実務上の対応は「二段階」で考える

では、実際に請求書が届いた場合、どう対応すべきでしょうか。

感情的に「払わない!」と突っぱねるのではなく、次の二段階で冷静に整理するのが実務の定石です。

ステップ1:成果物の「価値」を精査する

送られてきたデータに、客観的な利用価値があるかを確認します。

  • どの部分が
  • どの業務に
  • どの程度使えるのか

これを具体的に説明できない限り、「8割」という主張は成り立ちません。

「本件データは整理されておらず、当社での利用は不可能です。よって、履行の割合(利益)は認められません」と、冷静に主張します。

ステップ2:損害賠償と「相殺」する

仮に、データの一部に価値があったとしても、B氏の途中放棄によって、委託者には以下の損害が生じています。

  • 納期遅延による信用低下
  • 社内リソースの緊急投入
  • 代替対応に要した追加コスト

「仮に、あなたに報酬請求権が〇万円あるとしても、当社には〇万円の損害が発生しています。よって、対当額で相殺します」という整理になります。

多くのケースでは、

  • 成果物の価値は限定的
  • こちらの損害の方が大きい

という結論になり、支払額はゼロ、あるいは逆に請求する側に回ることも珍しくありません。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

「結末のないミステリー小説」に、対価は払えるか

コンサルタントの仕事は、突き詰めれば「課題に対する答え(結末)を出すこと」です。

今回のケースを例えるなら、これは「犯人が分からないまま終わっているミステリー小説」のようなものです。

伏線(リサーチ)や設定(データ)がどれだけ膨大でも、解決編(戦略・結論)がなければ、読者にとっての価値は限りなくゼロに近いでしょう。
むしろ、読む時間を奪われた分、マイナスかもしれません。

委任契約のトラブルでは、相手がどれだけ汗をかいたか、どれだけ時間を使ったかに惑わされてはいけません。

「何が残ったか」「それは使えるのか」

この一点を冷静に見極め、価値を言語化して精算表に落とす。
それが、結果としていちばん穏当で、いちばん強い対応になります。

価値のないものに「価値がない」と評価を下すことは、決して冷酷な行為ではありません。
それもまた、ビジネスにおける正しい「プロへの敬意」だと、私は思います。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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