令和5年11月30日東京高等裁判所/令和4年(ラ)1282号 面会交流審判に対する抗告事件

🕯️ 「写真だけでいい」と言われた夜――審判書の文字が父親を消した瞬間
封筒を開けたのは、夜でした。
「審判書」
ページをめくる。文字は整っている。冷静で、淡々としている。
けれど、そこに書かれている結論は、私の胸を一瞬で空洞にしました。
――当分の間、直接交流は相当でない。写真送付等の間接交流にとどめる。
生後数か月で別れて以来、私は一度も、子どもに会っていません。
抱っこもしていない。声をかけたこともない。
それなのに、この紙切れ一枚で、「父として関わること」は、さらに先送りされる。
私は完璧な夫ではなかったと思います。喧嘩もしました。感情的になったこともあります。
でも、それと「父親であること」は、別ではないのか。
この審判書は、私の人格を裁いているのではなく、私の存在そのものを、必要ないものとして処理しているように見えました。
――このまま終わらせてはいけない。
感情ではなく、理屈で。怒りではなく、準備で。安全に会える方法を、具体的に示す。
私は、その夜のうちに、即時抗告を決めました。
数か月後。東京高等裁判所の決定書を、同じように机の上で開きます。
――原審判を取り消す。
――試行的面会交流の実施を含め、交流方法を積極的に検討する必要がある。
――そのため、本件を原裁判所に差し戻す。
「会っていい」とは、書いてありません。けれど、「考えなくていい」とも、もう書いていない。
その事実だけで、私はもう一度、立ち上がれる気がしました。
※本記事の冒頭ストーリーは、実際の判例をもとにしたフィクションです。
実在の人物・団体を直接描写するものではなく、当事者の心情に想像を交えて構成しています。
⚖️ 「会わせない」から「検討せよ」へ――面会交流をめぐる高裁の法的ロジック
今回のテーマは、別居親(父)の実質的な逆転判断と「試行的面会交流」です。
一審(さいたま家裁川越支部)では「会うのは無理(間接交流のみ)」とされましたが、東京高裁(令和5年11月30日決定)で「会える可能性がある(差し戻し)」と判断された事例を解説します。
💡 キーワード解説:試行的面会交流とは?
「いきなり二人きりで会わせるのは不安」 そんなケースで行われるのが、家庭裁判所の「児童室(プレイルーム)」において、調査官の立ち会いのもとで実施される「お試し面会」です。
- 場所:裁判所内のプレイルーム(おもちゃや絵本がある明るい部屋)。
マジックミラー越しに隣室から様子を観察できる構造が一般的です。 - 目的:
- 慣らし(導入):調査官のサポートを受けながら、安全な環境で親子が交流し、不安を取り除きます。
- テスト(判断材料):継続的な面会が可能か、子どもがどう反応するかを見極め、裁判官が判断するための材料とします。
- 流れ:事前の面接を経て日程を調整します。当日は、子どもが部屋に慣れてから別居親が入室し、遊びなどを通じて交流します。
その様子は「調査報告書」にまとめられ、その後の判断に影響を与えます。
🏛️ 父親が直面していた「壁」(一審の敗因)
一審の家裁は、以下の理由で父親の訴えを退けました 。
- 子供の人見知り
調査官との面接でも泣いて母にしがみついていた。無理に引き離すのは負担が大きい。 - 母親の拒絶反応
夫への不信感が根強く、精神的・体力的余裕がない。
無理強いすると育児に支障が出る。
⚖️ 高裁はどうやって「壁」を突破したか?
父親の即時抗告を受けた東京高裁は、以下のロジックで一審の判断を覆しました。
1.「保育園に通えている」という事実
妻は「子供が人見知りで繊細だ」と主張していましたが、高裁は「令和3年7月から保育園に通えている」事実に着目しました 。
「集団生活ができているなら、周囲が配慮すれば人見知りは克服できるし、成長とともに収まるはずだ」と判断したのです。
2.「妻の感情」と「子供の権利」を分離
妻は夫の過去の言動(家事非協力や暴言)を理由に拒否していましたが、高裁は「直接的な暴力や支配的なDVがあったとは認められない」と認定しました 。
「妻が夫を嫌い」という主観的な理由は、面会を禁止する「客観的かつ具体的な事情」にはならないと断じました。
3.「第三者機関」による安全策
父親は、単に「会わせろ」と叫んだだけではありません。
事前に「第三者機関(FPICなど)」に相談し、「支援可能」という回答を得た上で、「第三者が間に入るから、妻に負担はかけない」と具体的に提案していました。
これが、「妻の負担は限定的になる」という高裁の判断を引き出しました。
🐯弁護士佐藤嘉寅(とら先生)の視点
この事例は、現在子供と会えずに苦しんでいるお父さんたちにとって、非常に勇気付けられるものです。勝因はどこにあったのか、戦略的に分析します。
🔍 「DV夫」との認定に疑問を投げかける
本件の具体的な事情は不明ですが、妻との関係が険悪なため、別居後面会交流できないケースは多々あり、私の経験上も、妻側が、夫のDV、モラハラの主張をすることは多くあります。
本件の勝因の一つは、抗告審における「徹底的な事実認定の見直し」にあります。
一審の審判書と高裁の決定書を見比べると、夫の行動に関する記述が、書き換えられています。
- 一審:「激高し、怒鳴ったり、急にニヤニヤしたりを繰り返していた」
- (異常性のあるDV加害者という印象)
- 高裁:「強く反発して感情的になり、相手方と喧嘩状態となった」
- (売り言葉に買い言葉の夫婦喧嘩という評価)
つまり、高裁は、DVと評価されるほどの客観的危険性が認められない場合もあると判断したと評価できるのです。
🔍 感情論ではなく「実績」で戦う
次に、この父親が勝てた要因は、「子供の成長(保育園への通園)」という客観的事実を武器にしたことです。
「ママがいないとダメ」という主張に対し、「でも保育園には行けてますよね? 社会性ありますよね?」と反論した点が効きました。
🔍 「会える環境」を自分で作る
この父親の素晴らしい点は、裁判所の判断を待つのではなく、自ら第三者機関に足を運び、外堀を埋めていたことです 。
「場所は確保しました」「プロが立ち会います」「ルールも守ります」
ここまで準備されたら、裁判所も「それなら、一度試してみようか(試行的面会交流)」という判断に傾きます。
⚠️ 父親たちへのアドバイス
「妻が嘘をついている」「俺は悪くない」と法廷で怒りをぶつけても、事態は好転しません。 裁判所が見ているのは「子供の利益」と「安全に実施できるか」の2点です。
- DVがないことの証明(または、あったとしても軽微であり現在は危険がないことの説明)
- 具体的で安全な面会プランの提示(第三者機関の利用など)
この2つを冷静に積み重ねれば、「会わせない」という壁は崩せます。 「試行的面会交流」を通じて、子供の成長にとって、父親の存在が有益であることをきちんと示し、その実績を積み重ねていくことが、正式な面会交流の実現につながっていくのです。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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