❓ 「友情と借金、そして時効の影」

大学時代の友人から、必死の形相で頭を下げられたのは数年前のことだった。

「どうしても必要なんだ、これがなきゃ事業が立ち上がらないんだ」

迷いながらも、俺はなけなしの100万円を差し出した。友情を信じて。
だが、事業は失敗に終わり、借金は返済されないまま。友人は音信不通になった。
その後も返済の連絡は一度もなく、心の奥底にしこりだけが残った。
――ところが最近になって耳に入った噂。
その友人は新たな事業を始め、羽振りよく夜の街を遊び歩いているという。

「俺には何の連絡もよこさないくせに……」

胸の奥で煮えたぎる怒りと悔しさ。許せない気持ちが膨らんでいく。

「必ず返してもらう」

決意を固めた彼の脳裏に浮かんだのは、ひとつの懸念――。
借金の請求には「時効」がある。すでにその期限は迫っていたのだ。


📘 「時効の完成猶予」と「時効の更新」

「借金の時効って止められるの?」
「内容証明を送れば間に合うの?」

――そんな疑問に関わるのが、2020年の民法改正で整理された 「時効の完成猶予」と「時効の更新」 という新しいルールです。

旧民法で使われていた「中断」「停止」という言葉は廃止され、より直感的に分かりやすい用語へと整理されました。この記事では、改正のポイントと実務上の注意点を分かりやすく解説します。


🔍 新しい用語の意味は?

  • 完成猶予 → 時効が「いったん立ち止まる」イメージ。一定期間だけ完成が先送りされます。
  • 更新 → 時効がゼロにリセットされ、その時点から新たにスタートします。旧法の「中断」にあたります。

💡 代表的なケース

(1)債務を「承認」したとき(更新)

借金があることを認めたり、一部返済をしたりすると、その瞬間に時効はリセット。そこから新たに時効が進みます。
👉 うっかり「確かに借りてます」と言ってしまうと時効が延びるので注意が必要です。

(2)「催告」をしたとき(完成猶予)

債権者が内容証明郵便などで「支払ってください」と催告すると、そこから6か月間は時効が完成しません。

⚠️ ただし重要なのはここです。
再度の催告をしても延長されません。

つまり「催告」で止められるのは一度きり。その間に裁判などの正式な手続きに移らなければ、時効は完成してしまいます。

(3)裁判や強制執行をしたとき(猶予→更新)

裁判を起こすと、その間は「完成猶予」。
判決が確定すれば、そこで「更新」となり、新たに時効が進みます。

和解調書や調停調書も同様に「更新」の効力を持ちます。
強制執行や仮差押えも、手続中は「猶予」、終了後は「更新」と整理されました。


🧭 なぜ変わったのか?

旧法の「中断」「停止」は分かりづらく、実務でも混乱が生じていました。

そこで改正民法では、

  • 完成猶予=一時停止
  • 更新=リセット

と、シンプルで直感的な表現に変更されたのです。


🚨 実務での注意点

  • 「催告」は一度きり、6か月以内に必ず裁判へ
  • 債務者が承認すると時効はリセット
  • 裁判や執行で猶予 → 判決等で更新

時効管理は債権回収の成否を左右します。
「まだ大丈夫」と思っていると時効完成で請求できなくなることもあれば、逆に債務者の側が「時効だと思ったのに、承認でリセットされてしまった」という落とし穴もあります。


✍️ まとめ

改正民法により、時効制度はシンプルに整理されましたが、実務上の注意点はむしろ明確になりました。

  • 「催告」の効力は一度きり
  • 「承認」でリセットされる危険
  • 「裁判・執行」で猶予→更新

債権を守る側も、債務者の立場でも、知っておくべき重要ポイントです。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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