瑕疵担保責任から契約内容不適合制度へ 買主の善意無過失は不要です!

以前、売主の瑕疵担保責任の問題として考えられていたものが、改正民法では、契約内容不適合制度として考えられるようになったと聞きましたが、どういった意味なのですか?

瑕疵担保責任の法的性質について、以前の学説では、債務不履行責任の特則であるとする契約責任説と、法定責任説の争いがあったんだ。私が、司法試験の勉強をしていたときは、法定責任説の方が支持されていたけど、今回の改正では、契約責任説が採用されたんだ。
そのため、瑕疵担保責任も、契約責任説の立場から構成し直すことになった結果、売主は、契約の内容に適合した給付をすべき義務を負うことになる。これが契約内容不適合制度だよ。

今回の改正で、「契約内容不適合制度」が創設されました。これは、瑕疵担保責任を、法定責任説の立場から構成し直したもののため、本来、債務不履行として考えれば足りるとも考えられますが、国民に分かりやすい民法を制定しようとしたため、売買契約の買主の権利として、追完請求権と代金減額請求権を明文化しています。
契約責任説に基づくものなので、売買以外でも問題となる契約解除の条文構造とよく似た構造となっており、契約内容不適合制度は、一般の債務不履行責任の特則と考えられます。

また、瑕疵担保責任では、目的物に隠れたる瑕疵があることを要件としており、これは、買主の善意無過失(知らなかったことに過失がないこと)が必要とされていました。しかし、今回の改正で、契約不適合が、隠れたものである必要はなく、外形上、契約内容不適合であることが明白であっても、買主は、追完請求を求めることができることになりました。
すなわち、契約内容不適合責任制度においては、「契約の内容に適合しないこと」のみが、買主の責任追及の要件となっています。

いかなる場合に、契約内容不適合にあたるかは、取引通念に照らし、総合的に考慮することになります。

売買契約の買主の権利

契約内容不適合制度では、売買契約における買主の権利が、次のように整理されました。
債務不履行責任の特則のため、一般の解除権、損害賠償請求権の行使の制限も理論上は考えられるところですが、564条は、契約の解除、債務不履行に基づく損害賠償請求を認めています。

①追完請求権(562条1項)
②代金減額請求権(563条1項、同条2項)
③契約の解除(564条、541条、542条)
④債務不履行による損害賠償(564条、415条)

①追完請求権・代替物提供請求権

契約内容不適合制度のもと、562条1項本文は、売買の目的物に「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができると、買主の権利を明示しています。

これに対し、同項但し書きでは、売主にも、「買主に不相当な負担を課するものでないとき」との条件のもと、買主の求める内容とは異なる方法による履行の追完を認めています。

同条2項は、契約内容不適合が、債権者である買主の責任である場合には、買主は、履行の追完を請求できないものとしています。
これは、一般の解除の場合や、危険負担の債権者の責めに帰すべき事由がある場合の制限と同様です。

加えて、562条は、追完請求の対象として、特定物が不特定物かを区別していません。
よって、特定物についても、履行追完請求権は認められますが、どういった形で履行ができるのかは、実務の現場で考えられて行くのでしょう。
履行の追完ができなければ、契約解除、損害賠償請求の問題となります。

(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

②買主の代金減額請求権

563条1項は、売買の目的物が、契約内容に適合しない場合に、買主が相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行の追完がないときは、買主が代金の減額を請求できることを規定しています。
そして、同条2項は、無催告で、買主が代金の減額を請求できる場合があることを規定し、同条3項では、買主の責めに帰すべき事由による契約内容不適合の場合には、代金減額の請求を行使できないとしています。

代金減額請求は、契約の一部解除と同様の効果をもたらします。そのため、催告による代金減額請求が原則となります。

無催告による代金減額請求の要件は、無催告解除の場合の要件と対比できます。

(買主の代金減額請求権)
第五百六十三条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

③買主の解除

④債務不履行に基づく損害賠償請求権

564条は、契約内容不適合の場合に、一般の解除、債務不履行に基づく損害賠償請求を求めることができることを規定します。
この点、旧法の瑕疵担保責任は、売主が無過失であっても損害賠償責任を負うとされていましたが、契約内容不適合制度のもとでは、415条に基づく債務不履行責任に基づく損害賠償請求のため、売主の損害賠償責任が認められるためには、売主(債務者)の帰責性が必要となります。

(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第五百六十四条 前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。

期間制限

566条本文は、売主が『種類又は品質』に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合、買主がその『不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないとき』は、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない、と定めています。
売主は、不適合を知った時から、1年以内に通知を求められ、一般の損害賠償請求よりも、期間制限が厳しいです。これは、売買契約の法的安定性を早期に認める必要があるからです。

但し、ここで注意しないといけないのは、期間制限がされるのは、「種類または品質」に関してのみであり、数量の不適合性は問題とされていないところです。

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

とら先生ぷちコラム
契約内容不適合制度については、買主の権利として明記されており、何を求めることができるのか分かりやすいです。しかし、債務不履行責任の特則とされて、売買における法的安定性も求められていることから、目的物の「種類又は品質」に関する契約不適合については、むしろ、期間制限の点で、買主に不利な面もあります。
また、損害賠償請求も、債務者に責めに帰すべき事由が必要となったことから、無過失責任が認められていた旧法と異なり、買主にどれだけのメリットがあるのかは、現時点では、私には分かりません。
結局、旧法で不完全履行として曖昧な形にされていたものを、契約内容不適合制度のもと、買主が、履行の追完や、代金減額請求ができるものとして明示することで、買主にメリットを与えたということでしょう。
今後の実務の集積が待たれるところです。
 
 

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