法改正トピック|2020年民法改正(令和2年4月1日施行)

💸「エンジェル税制」という言葉から始まった話
「エンジェル税制って、ご存じですか?
ベンチャー企業に投資するだけで、所得税が還付される制度なんです」
知人の経営コンサルタント丸江氏(仮名・A)から、そう説明を受けた青木さん(仮名)。
紹介されたのは、設立間もないベンチャー企業ビクトリー株式会社(仮名・B社)でした。
「節税できて、将来は成長も期待できる。
こういう投資は、早く動いた人が得をするんですよ」
パンフレットも整っており、話に違和感はありませんでした。
青木さんはB社と投資契約を結び、200万円を出資します。
ところが数か月後、思いがけない事実が判明します。
B社は、そもそもエンジェル税制の対象要件を満たしていなかったのです。
さらに、Aとは連絡が取れなくなっていました。
青木さんはB社に事情を説明し、返金を求めました。
しかし、B社の回答はこうでした。
「私たちを騙したのは丸江氏です。契約は有効ですし、返金には応じられません」
Aは不在。
B社は「自分たちも被害者だ」と主張する。
青木さんは、この投資契約を取り消すことができるのでしょうか。
⚖️ 法律の整理:第三者による詐欺(民法96条2項)
この問題は、法律上、「第三者による詐欺」として整理されます。
契約当事者ではない第三者(A)が虚偽の説明をし、その結果として契約が成立した場合です。
民法96条2項は、次のように定めています。
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
ポイントは、
契約の相手方(B社)が、詐欺を「知っていた」か、または「注意すれば気づけたか(過失)」です。
🕊️ 「グルであること」まで立証する必要はない
誤解されがちですが、この規定は「B社がAと共謀していたこと」まで求めていません。
問題になるのは、B社として、Aの説明内容や投資勧誘の実態を把握・確認すべき立場にあったかという点です。
たとえば、
- 投資家募集をAに任せきりにしていた
- 自社がエンジェル税制の要件を満たすか確認していなかった
- Aと継続的に打合せをしていたのに、説明内容を把握していなかった
こうした事情があれば、「知らなかった」では済まされない(過失がある)
と評価される余地が出てきます。
その場合、投資契約の取消しが認められる可能性があります。
🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点
――誰に責任を求めるか、ではなく「どこに現実的な解決があるか」
投資トラブルでは、実際に嘘をついた人物(今回でいえばA)に請求しても、資産を隠されていたり、すでに回収不能であることが少なくありません。
その意味で、契約の相手方との関係をどう整理するかは、実務上、非常に重要な検討ポイントになります。
ただし、
「投資先企業は常に悪者だ」と決めつける話でもありません。
企業側も十分な確認をしないまま、第三者の説明に依存していた。
その結果として問題が生じるケースも多いのが実情です。
💡 実務的ワンポイント
エンジェル税制の話が出たら、必ず公式情報を確認する
エンジェル税制を利用する場合、対象企業は都道府県の確認書を取得し、その写しを投資家に交付します。
中小企業庁の公式サイトには、制度の概要や確認方法が掲載されています。
「申請中」「これから認定される予定」という説明だけで投資を判断するのは、
慎重であるべきでしょう。
おわりに
制度は、本来、挑戦を後押しするためのものです。
しかし、その言葉だけが独り歩きすると、思いもよらない形で、個人のリスクになります。
投資に限らず、「第三者の説明」を前提に契約する場面では、その説明を誰が、どこまで確認しているのか一度立ち止まって考えることが大切です。
それが、あとから「こんなはずではなかった」と感じないための、
一番の予防策なのかもしれません。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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