
🚨 返礼品に潜む罠
冷蔵庫から取り出した鶏肉の箱を見つめ、若い市職員は眉をひそめた。
「宮崎県産」と大きく記されたラベル。だが、入荷伝票の片隅には小さく「外国産混合」との記載があった。
――なぜだ?
疑念が胸をざわつかせる。ふるさと納税の返礼品は、市の看板でもある。産地を偽ることは、市の信用そのものを揺るがす行為だ。
上司の机に箱と伝票を並べると、室内に緊張が走った。
「もしこれが本当なら、契約違反どころか、市全体の信頼問題になります。」
彼は声を低く抑えながらも、言葉に力を込めた。
上層部の視線が交わり合う。
「寄附者にはすでに返礼品が届いている……だが、消費済みかどうかは問題ではない。自治体としての信用失墜こそが最大の損害だ。」
静まり返った会議室で、重々しい結論が下された。
「業者には責任を問う。不当利得の返還と違約金請求だ。」
若い職員は、深く息をついた。
小さな違和感を見逃さなかった自分の目が、これから大きな闘いの引き金になる。
――自治体の名誉を守るために。
📌 本記事の冒頭ストーリーは、実際の判例を参考に再構成したフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
📘 事件の概要
今回取り上げるのは、宮崎県都城市の「ふるさと納税」事業に関する裁判です。
都城市は、食肉販売業者と業務委託契約を結び、寄附者に返礼品(地場産の鶏肉)を配送する業務を任せていました。ところが、その業者は実際には ブラジル産やタイ産の鶏肉を“宮崎県産”として配送していた のです。
市は「産地偽装は契約違反だ」として契約を解除し、業者に対して以下を請求しました。
- 支払済みの委託料約1億4,800万円の返還(控除済み分を差し引き、約8,400万円)
- 「さとふる」に支払った配送費用3,600万円
- 違約金(委託料の10%=約1,480万円)
一方で業者は反訴し、未払委託料361万円や「誤って払った6,000万円の返還」を求めました。
⚖️ 一審(宮崎地裁)の判断
一審は市の請求を全面的に認め、業者の反訴は棄却されました。
ポイントは次のとおりです。
- 返礼品が「地場産品」であることは契約の根幹に関わる要素
- 偽装品を送った以上、契約を履行したとはいえない
- よって、受け取った委託料は 全額が不当利得 にあたり返還義務がある
⚖️ 控訴審(福岡高裁宮崎支部)の判断
控訴審でも結論は変わらず。市の請求を認め、業者の反訴は退けられました。
特に注目すべきは、業者側の主張に対する裁判所の姿勢です。
- 業者の主張①
「返礼品はあくまで寄附への“お礼”だから、市に損害はない」
→ 裁判所は「偽装品を送っておいて損害がないとはいえない」と一蹴。 - 業者の主張②
「契約解除なら違約金だけ払えば足りる。委託料全額返還は重すぎる」
→ 裁判所は「地場産品であること自体が契約の根幹。偽装品を送った時点で契約目的は達成できない」と判断。 - 業者の主張③
「寄附者が返礼品を食べてしまった以上、市は元に戻せないのだから、全額返還はおかしい」
→ 裁判所は「消費されても、市に利得が残っているとはいえない」と退けました。
💡 この判例の意味
この判決が示すのは、ふるさと納税の返礼品は単なる「贈り物」ではなく、地域のブランドを守るための公共的な契約 だということです。
- 地場産品であることは「飾り」ではなく、契約の核心
- 産地偽装は「部分的な不履行」ではなく「全面的な契約不履行」
- したがって、委託料は全額返還+違約金も発生
という、非常に厳しい姿勢が明確になりました。
🧭 実務への示唆
- 自治体側
返礼品の選定・監督体制を徹底することが必須。業者に「丸投げ」してはいけません。 - 業者側
「多少なら…」という安易な考えは命取り。産地や品質の偽装は、契約全体を吹き飛ばす重大なリスクになります。 - 寄附者側
安心して寄附できる制度を守るためにも、こうした裁判例は大切な役割を果たしています。
👀 寄附者の目線から
寄附をする人にとって最も大切なのは「信頼」です。
「本当に地元の産品を応援できているのか」という安心感がなければ、ふるさと納税そのものが成り立ちません。
この判例は、寄附者が安心して制度を利用できるための司法の後押しでもあります。
❓ Q&A:よくある疑問
- Q:返礼品を食べてしまったら返還は求められない?
→ いいえ。消費済みでも契約違反があれば不当利得返還義務が生じます。 - Q:一部が外国産でもアウト?
→ はい。地場産であることが契約の本質なので、一部混入でも重大な違反です。 - Q:全国の自治体にも影響する?
→ 当然です。ふるさと納税は全国的な制度であり、今回の判例は他の自治体にとっても先例となります。
✍️ まとめ
ふるさと納税は「地域を応援したい」という寄附者の思いで支えられています。
今回の判例は、その信頼を裏切る産地偽装に厳しい姿勢を示し、全国的に制度の健全性を守るための重要な指針となりました。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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