⚖️「タダ乗りは許さない」──読売新聞が生成AIを提訴

著作権法30条の4から読み解く、AIとニュースの未来
yomiuri ai lawsuit 2025

💡 便利さの裏側──利用者が知った“要約”の代償

スマホの画面に浮かび上がった青と白のシンプルな画面。
指先で「最近のニュース」と打ち込むと、数秒も経たないうちに、滑らかな日本語で整った記事要約が現れる。

「便利だなぁ……」
40代の会社員・田中は、通勤電車の中で何気なく呟いた。
仕事と家庭に追われ、紙の新聞をじっくり読む時間はもう何年もない。SNSは情報が断片的すぎる。そんな中、友人が勧めてきたAI検索サービス「Perplexity」は、一度使うと手放せなくなった。

画面には「読売新聞によると──」と出てくるが、リンクを踏むことはほとんどない。要約で十分だし、電波の悪い地下鉄でも読めるのがありがたい。朝のニュースチェックはもっぱらこのアプリになった。

けれど、その日──ネットのニュース欄で目にした見出しが、田中の胸に小さなひっかかりを残した。

「読売新聞、Perplexityを提訴」

著作権侵害、無断利用、12万本以上……記事は、普段彼が読んでいた“要約”の出所と、その背後にある膨大な取材現場の努力を語っていた。

「……あれって、そんなことになってたのか」
通勤電車の窓に映る自分の顔は、少しばつが悪そうに曇っていた。
便利さの裏側に、誰かの時間と汗がある──そんな当たり前のことを、久しく忘れていたのかもしれない。

※本記事の冒頭ストーリーは、実際の報道をもとにしたフィクションです。
実在の人物・団体を直接描写するものではなく、当事者の心情に想像を交えて構成しています。

🚨 読売新聞が米国の生成AI事業者「Perplexity」を提訴

AIが一瞬で答えを返してくれる便利な時代。
「昨日の台風情報を教えて」と聞けば、最新ニュースが整理されて返ってきます。
でも、その文章は誰が書いたもので、どこから来た情報なのか、考えたことはありますか?

2025年8月8日、日本の報道史に残る一歩が踏み出されました。
読売新聞が米国の生成AI事業者「Perplexity(パープレキシティ)」を相手取り、記事の無断使用による著作権侵害を理由に、約21億円の損害賠償と使用差止めを求めて東京地裁に提訴。
日本の大手報道機関による生成AI事業者への提訴は初めてで、この裁判はAIの自由な活用と著作物保護のバランスを問う歴史的ケースとなりそうです。

🔍 訴訟のポイント

  • 記事の無断使用
    Perplexityが利用者の質問に答えるため、読売新聞のネット記事を取得・利用(推定12万本弱)。
  • 著作権侵害の主張
    複製権・公衆送信権の侵害を指摘。
  • 経済的損害
    利用者が直接記事を読まなくなり広告収入減少。
  • 「タダ乗り」批判
    多大な労力と費用をかけた取材記事へのフリーライド。

📘 著作権法30条の4とは?

AIによる情報利用の可否を考えるうえで欠かせないのが著作権法30条の4
これは「著作物を、情報解析(マイニング)のために利用できる」という規定です。
ただし、この条文は学習”と出力を厳しく区別**しています。

┌──────────────┐
│ AIの頭の中(学習) │ ← 多くはOK(30条の4)
└──────────────┘

┌──────────────┐
│ AIの口(出力) │ ← 許諾必要な場合あり
└──────────────┘
  • 学習段階(AIが記事を読んでパターンを学ぶ)
    → 権利者の許諾なしでも可(非営利・営利問わず)
  • 出力段階(記事の表現を再構成して利用者に見せる)
    → 著作権侵害となる可能性あり

今回の訴訟では、Perplexityの「回答生成」がこの出力段階に当たり、許諾なし利用は違法と主張しています。

🧩 国際比較:日本の独自性

  • 米国:フェアユースで包括的判断。社会的利益があれば一定の無断利用も許容。
  • EU:営利利用は原則許諾必要。権利者によるオプトアウト制度あり。
  • 日本:学習は広くOK、出力は厳格(権利者の利益を害する場合は不可)。

つまり、日本は「学習自由・出力厳格」という独特のバランスを採用。
今回の裁判は、その線引きをより明確にする試金石となります。

💡 今回の意義

  1. 国内初の生成AI訴訟
    著作権とAIの関係を裁判所が初めて正面から判断。
  2. 報道の持続可能性
    無断利用が常態化すれば、取材体制の維持が困難に。
  3. AIビジネスモデルへの影響
    利用許諾契約や課金モデルの整備が急務になる可能性。

🧭 まとめと問いかけ

AIの進化は止まりません。
しかし、便利さの裏で、報道や創作を支える「正当な対価」が守られなければ、社会の情報基盤そのものが揺らぎます。

あなたは、AIがニュース記事を自動要約して使うことをどう思いますか?
便利さと権利保護──どこで線を引くべきでしょうか。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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