🚨TBS「報道特集」は偏向報道だったのか?

──放送法4条と行政指導の限界をめぐる訴訟

✍️「伝えたい熱」と「伝わってしまう危うさ」──現場の葛藤

編集ブースの時計が、深夜2時を回った。
プロデューサーの永沢は、モニターの前で腕を組み、黙ってVTRを見つめていた。
テロップ、ナレーション、インタビューの切り取り──
どれもスタッフが魂を削って組み上げた“報道の砦”。
だが、ふと心の奥で何かが囁く。

「これは、“事実”を伝えているのか、それとも“解釈”を誘導しているのか?」

永沢が報道番組に飛び込んだのは、20年以上前。
腐った制度に切り込みたい。泣いてる誰かの声を届けたい。
その原点は、今でも変わっていない。

けれど、今はSNSで「偏っている」と叩かれ、総務省ですら「放送法違反の疑い」と口にする時代。

「俺たち、偏ってますかね?」

若手ディレクターの言葉に永沢は答える。

「伝えたいと思う情熱がある限り、どこかには傾く。だからこそ、どこまでバランスを取るかが“報道”なんだよ」

伝えることは、いつだって危うい。
でも、黙ることの方が、もっと恐ろしい。

※本記事の冒頭ストーリーは、実際の報道をもとにしたフィクションです。
実在の人物・団体を直接描写するものではなく、当事者の心情に想像を交えて構成しています。

📘 訴訟の概要:TBS報道に行政指導を求めた義務付け訴訟

2025年7月31日、YouTubeチャンネル「ソーシャルラボ」を運営する株式会社が、総務省を相手取り、TBS「報道特集」に対する調査と行政指導を求める義務付け訴訟を東京地裁に提起しました。

論点は2つ:

  1. TBS報道が放送法4条に反する政治的偏向報道だったか
  2. それに対して総務省はどのように対応すべきか

📘 放送法第4条──番組編集の倫理規範

問題の中心となるのは、放送法第4条第1項:

  1. 公安および善良な風俗を害しないこと
  2. 政治的に公平であること
  3. 報道は事実をまげないこと
  4. 意見が対立している問題は、多角的に論点を明らかにすること

この条文は法的拘束力を持たない「努力義務」とされ、免許制度下での倫理的ガイドラインです。

🔍 ソーシャルラボの主張と訴訟の背景

原告は、TBSが2024年の千葉県知事選や2025年の参議院選において、

  • 参政党や立花孝志氏を一方的に批判的に取り上げた
  • これは放送法4条に違反する政治的偏向

と主張しています。

さらに、総務省が番組を調査し、必要に応じて行政指導を行うべきとしています。

❓「行政指導」は可能なのか?報道と憲法21条の緊張関係

放送法は、総務省に対し放送局に対する「指導・助言・勧告・命令」が可能であるとしていますが、第4条違反を直接取り締まる権限はありません。

これは、憲法21条が保障する「報道の自由」とのバランスを取るためです。

過去の例:

  • 2016年「高市早苗・電波停止」発言でも議論が巻き起こり、
  • 政府による放送内容への介入には慎重であるべきとの意見が主流です。

今回も、総務省は「訴状が届いていない」とコメントを控え、TBSは「訴訟当事者ではない」としています。

⚖️ 民間からの義務付け訴訟に意味はあるのか?

本件は、行政機関に対して特定の「作為」(今回は調査と指導)を求める義務付け訴訟です。
ただし、過去の裁判例では以下のような傾向があります。

  • 放送内容は高度な専門的判断が必要
  • 司法が介入するのに適さないとされるケースが多い
  • 原告勝訴の可能性は低いという見方が一般的

それでも、この訴訟には次のような意義があるかもしれません。

  • 放送法の倫理条項が形骸化していることへの警鐘
  • 総務省の監督が形式的すぎるという問題提起
  • 「政治的公平性」の解釈についての検討の要否

🧭 おわりに──言論の自由か、公平性か

今回の訴訟は、「放送内容が偏っているかどうか」を司法の場で問う、極めてセンシティブな事案です。
しかし、私たちは忘れてはならないでしょう──「気に入らない報道を行政に取り締まらせる」という発想そのものが、表現の自由を脅かす危険性を孕んでいるということを。

放送法第4条が「努力義務」とされているのは、まさにこのバランスのためです。
政治的公平性や多角的論点の提示は確かに重要ですが、それを国家権力が「監視」や「介入」の口実として用いることは、民主主義にとって深刻なリスクとなります。

報道は、常に誰かにとって“不快”なものになり得ます。
それでも、報道機関が恐れずに取材し、編集し、発信できる空間がなければ、
私たちが本当に知るべきこと──「都合の悪い真実」は、決して届かなくなるでしょう。

この訴訟が問うべきは、TBSの番組内容そのものではなく、「政府に報道を取り締まる権限をどこまで認めるべきか」という構造の問題です。

そして私たち市民は、気に入らない言論と共存できる寛容さを持てるかどうかが、自由社会の成熟度を示す指標だということを、改めて噛み締める必要があるのかもしれません。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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