──離婚前でも財産を守る「防御策」という選択肢──

💬 相談内容

佐々木さん
(仮名)

離婚調停の最中に、夫名義の投資用マンションが売却されそうなんです。
このままでは、離婚後に何も残らないかもしれません。
売却を止める方法はあるのでしょうか?

とら先生

離婚する場合、配偶者間には「財産分与請求権」が認められています。
この財産分与請求権を被保全債権として、離婚成立前でもマンションを仮差押えすることは可能です。

ただし、仮差押えには相当額の担保(供託金)が必要です。
最終的には返還されますが、手続きの時点では準備が必要になります。
担保の準備ができるなら、手続きを検討する価値は十分にあります。

🏠 財産分与とは?

財産分与とは、離婚に際して、婚姻中に築いた財産をどのように分けるかを定める制度です(民法768条1項)。
その目的は、単なる清算ではなく、離婚後の生活の安定を確保することにあります。

財産分与には3つの類型があります。

1️⃣ 清算的財産分与:婚姻中に協力して形成した財産を清算
2️⃣ 扶養的財産分与:専業主婦など経済的弱者への扶助
3️⃣ 慰謝料的財産分与:有責配偶者への制裁的補償

実務上、「財産分与」と言えば、1️⃣の清算的財産分与を指すことがほとんどです。

🔹 財産分与(民法768条)
(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

🧾財産分与請求権を被保全債権とした仮差押え

財産分与は、離婚時点で夫婦共有の財産が残っていることが前提です。
ところが、離婚協議中に不動産が売却されてしまうと、相手方が現金を隠したり使い込んだりする可能性が高く、分与の実効性が失われてしまいます。

そこで、妻が離婚成立前に財産を確実に確保する方法として、
「財産分与請求権を被保全債権として仮差押えを行う」という手続きが用意されています。

🏛️ 管轄裁判所

通常の金銭債権を仮差押えする場合は地方裁判所ですが、財産分与請求権の場合は、家庭裁判所が管轄となります。
これは、財産分与が離婚問題に付随するためです。

📚 仮差押えの要件と必要資料

仮差押えは、一方当事者の主張のみに基づき相手の財産を拘束するため、
裁判所は慎重な判断と担保の提供を求めます。

💡 要件
  • 離婚原因が存在すること(離婚を前提とした請求であること)
  • 財産が処分されるおそれがあること(仮差押えの必要性)

質問のケースでは、夫がマンションの売却を進めている事実が、まさにその「必要性」にあたります。

📑 疎明資料(例)
  • 戸籍謄本
  • 不動産登記簿謄本(全部事項証明書)
  • 固定資産評価証明書
  • 路線価図・ブルーマップ
  • 申立人(債権者)の陳述書

必要に応じて、夫の売却意向を示す証拠(メール・広告など)も提出します。

💰 担保(供託金)について

仮差押えには担保金が必要です。
金額は請求額の2〜3割程度で、相手方の損害賠償請求権を担保する目的があります。

ただし、仮差押えが不当でなければ、手続き終了後に返還されます。
弁護士が適切に申立てを行えば、実際に損失となることはほとんどありません。
担保金は「将来の安心を買うための保険料」と考えておくとよいでしょう。

⚠️ 起訴命令の申立てに注意

仮差押えを行っても、離婚裁判を提起しないまま放置していると、
相手方が「起訴命令の申立て」を行うことがあります。

この申立てが出されると、裁判所から「本訴を起こすよう命令」が出され、
応じない場合には仮差押えが取り消されます。

つまり、仮差押えだけで終わらせることはできず、最終的には離婚訴訟を視野に入れた対応が必要です。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

離婚における財産分与は、単なる結婚生活の清算ではありません。
それは、配偶者の将来の生活と尊厳を守る、最後の防波堤です。

法律上、財産の半分を受け取る権利があっても、相手が悪意をもって不動産を処分したり、現金を隠匿したりすれば、その権利は「絵に描いた餅」となってしまいます。

👉 このように「権利の実効性」が危機に瀕したとき、
弁護士の仕事は、法廷の論理を超えて、依頼者の生活の継続性を守ることにあります。
仮差押えは、高額な供託金というハードルがあるものの、まさにこの防御策として機能します。

この手続きは、「離婚したいか、しないか」という感情論を超え、
「離婚後に、自分自身で人生を再構築できる基盤を確保できるか」という、極めて現実的な判断を問うものです。

供託金は、いわば「将来の安心を買うための保険料」です。
私たちは依頼者に対し、目先の費用と長期的な生活リスクを比較し、
最善の防御策を講じるための選択を支援しなければなりません。

離婚の扉を開く覚悟があるなら、その権利を守り抜くために、
躊躇せず保全措置を検討すべきでしょう。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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