法改正トピック|2020年民法改正(令和2年4月1日施行)

😱 プロローグ:3月31日の冷や汗

3月31日、午後11時。 中堅商社「カミクラ商事」(仮称)の社長、上倉(仮名)の背中には、嫌な汗が伝っていた。

「おい、また止まったぞ……。どうなってるんだ」

静まり返った執務室に、経理部長の悲鳴に近い声が響く。 モニターの中では、無機質な「システムエラー」のポップアップが、あざ笑うかのように点滅していた。

明日から4月1日。新年度だ。 1年半の期間と、数百万円の予算を投じて開発させてきた「新・販売管理システム」が、いよいよ稼働する日である。

それなのに——。

「社長、ダメです。売上の月次集計ボタンを押すと、必ずフリーズします。これでは請求書が1枚も出せません」
「スマホ対応はどうだ? 営業が外から在庫確認できるようにするって話だったろう」
「それも……スマホで見ると画面が崩れて、文字化けして読めません」

上倉は震える手で、受話器を握りしめた。 相手は、開発を請け負ったアクロディア社(仮称・A社)の担当者だ。

『ああ、上倉社長ですか。夜分にどうされました?』

受話器の向こうから、悪びれる様子もない、眠そうな声が聞こえる。 上倉は怒鳴りたいのを必死にこらえて、状況を伝えた。請求書が出せないこと。スマホで在庫が見られないこと。これでは会社が潰れてしまうこと。

しかし、返ってきたのは耳を疑う言葉だった。

『社長、落ち着いてくださいよ。一応動いてはいるんでしょう? スマホの件もね、仕様書には「対応する」とは書きましたが、「どの機種でどう見えるか」までは定義してませんよね? だから、それはバグじゃなくて「仕様」です。 修正をご希望なら、追加費用の見積もりを出しますんで。来月以降に検討しましょう』

『ふざけるな! 明日からどうやって商売すればいいんだ!』

電話は一方的に切れた。 ツー、ツー、という電子音が、上倉の耳元で空しく響く。

手元には、A社と交わした契約書。 そして目の前には、使い物にならないシステムと、顔面蒼白の社員たち。
絶望の淵に立たされた上倉は、最後の望みをかけて、顧問弁護士の番号をダイヤルした。

「先生、助けてください。……騙されたのかもしれません」

⚖️ この状況、法律はどう裁くのか?

上倉社長の事例は、決してフィクションの中だけの話ではありません。 システム開発の現場では、「動かないシステム」を巡って、発注者とベンダー(開発会社)の間でトラブルが生じるのは少なくありません。

「仕様通りだ」と言い張るベンダーに対し、発注者は泣き寝入りするしかないのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。

2020年の民法改正により、請負契約(システム開発など)のルールは、従来の「瑕疵担保責任」から、より機能的な「契約不適合責任」へと生まれ変わりました。

この状況で、上倉社長がA社に突きつけることができる「4つの権利」について、法的見地から解説します。

📘システム開発契約と民法改正の基本構造

システム開発契約は、一般に請負契約に該当します。
旧民法では、請負契約について独自の「担保責任」が定められていましたが、改正民法(2020年施行)により、この体系は大きく整理されました。

現在は、売買契約における「契約不適合責任」の考え方が、請負契約にも原則として準用されます。

判断の基準は、極めてシンプルです。

契約書・仕様書で合意した内容(種類・品質)に、納品された成果物が適合しているかどうか

今回の事案では、

  • エラーが頻発し業務に使えない
  • 仕様書記載の機能が実装されていない

以上の点から、契約内容に適合していない(契約不適合)と評価される可能性があります。

🛠️発注者が行使できる4つの権利

請負人(A社)が契約内容に適合しない成果物を納品した場合、発注者(上倉さん)は、次の権利を検討できます。

🔧修補請求(履行の追完)

まず基本となるのが、「契約どおりに直してほしい」という請求です。

  • バグの修正
  • 未実装機能の実装

などを求めることができます。

ただし、請負人にとって著しく不相当な負担となる場合には、別の方法による対応が認められることもあります。

💰報酬減額請求

改正民法で明確に位置付けられた、実務上重要な権利です。

相当期間を定めて修補を求めても対応されない場合、不具合の程度に応じて、報酬の減額を請求できます。

また、

  • 修補が不能な場合
  • 修補しても意味がない場合

などでは、催告なしに減額請求が認められることもあります。

🚪契約解除

不具合が重大で、「このシステムでは、導入した目的を達成できない」と評価される場合には、契約解除を検討することになります。

解除が認められれば、支払済みの報酬の返還を求めることも可能です。

もっとも、軽微な不具合では解除は認められないため、業務への影響の程度が重要な判断要素となります。

⚠️損害賠償請求(※重要な注意点)

システム不具合により、

  • 業務が停止した
  • 売上が減少した
  • 取引先対応に追加コストが生じた

といった損害が発生した場合、損害賠償請求も検討対象になります。

ただし、ここが民法改正による重要な変更点です。

  • 旧民法:請負人に過失がなくても責任を負う場面があった
  • 改正民法:原則として、請負人の「帰責事由(ミス)」が必要

たとえば、

  • 発注者側の要件定義が不十分
  • 無理な仕様変更を繰り返した

といった事情がある場合、損害賠償請求が否定される可能性があります。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

📝実務上、最も重要なのは「契約書と仕様書」

改正民法のもとでは、「契約内容」がすべての出発点になります。

  • 仕様書が曖昧
  • 抽象的な表現が多い

このような場合、「契約内容に適合していない」と主張すること自体が難しくなります。

実務上の注意点

  • 仕様書はできる限り具体的に記載する
  • 不具合発生時の対応(修補・期限・減額等)を契約書に明記する
  • トラブル発生時は、仕様書と現状との差分を整理する
まとめ:トラブル時に見るべき視点

システム開発契約におけるトラブルでは、

  • 「バグがあるか」
  • 「出来が悪いか」

ではなく、「契約内容に適合しているか」という視点で整理することが不可欠です。

改正民法のルールを踏まえ、まずは契約書・仕様書を確認し、どの権利を行使すべきかを冷静に検討することが、実務上の第一歩となります。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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