「SNSで稼げる副業」の罠

──消費者白書が示す新たな被害の実態と法的備え

📍 「退職後の備えに…」信じた“学びの場”が、詐欺の入り口だった

「いやあ、まさか、自分が騙されるなんて思いもしなかったんですよ……」

定年を迎えてからというもの、時間はたっぷりあるけれど、貯金を切り崩す日々に、少しずつ不安が募っていました。
年金だけでは、医療費や万が一の出費が心もとない。
だからこそ、“今からでも学べる投資”を、探していたんです。

そんなある日──スマートフォンで見つけたのが、有名な投資家を名乗る「大川正樹先生」の無料オンライン勉強会の案内でした。
サイトはよく作り込まれていて、受講者の声や株式チャート、PDFの教材見本まで揃っていた。
自然と、「参加してみよう」と思いました。

案内されたのは、LINEのオープンチャット『未来経済研究室』。
そこでは、「先生」を囲んで数十名が投資の話題を活発に交わしていました。
資料の完成度や、語られる内容の“それらしさ”に、私はすっかり信じ込んでしまったのです。

数日後、先生のアシスタントを名乗る「原田幸さん」から、個別にLINEが届きました。
「若林さん、特別なご案内です。高勝率の金取引プランにご興味はありませんか?」

丁寧で、こちらの様子を気遣うような言葉づかい。
「資産倍増の実績がすでに出ています」「リタイア世代に最適のプランです」
その言葉を、私は信じてしまいました。

結果、私は指示された先に、合計1000万円を送金しました。

……けれど、実際に出金を求めると、手数料が必要とのことで、さらに送金しました。
しかし、結局、出金することはできませんでした。

あのときの「自分だけが選ばれた気がした」興奮が、今では、悔しさと、怒りに変わっています。

❗ 甘い誘惑にご用心!SNS詐欺の入り口とは?

「スマホひとつで月収〇万円」「隙間時間にできる簡単副業」──
そんな甘いSNS広告、思わずクリックしてしまいそうになった経験はありませんか?

残念ながら、それらはあなたを狙う詐欺の入り口かもしれません。
2025年版の消費者白書によると、こうしたSNS関連の相談件数が過去最多を更新。
特に若年層に多い「副業詐欺」や、高齢者の「投資トラブル」が深刻化しています。

今回は、最新の消費者白書が示す実態をもとに、どのようなトラブルが起きているのか、
そして、もし被害に遭ってしまった場合に法的にどう対応できるのか、弁護士の視点から分かりやすく解説いたします。

📈 SNS副業トラブルが急増

2024年のSNS関連相談件数は、前年より約5,000件増加し、8万6,396件と過去最多を記録。
そのうち、30代以下では「簡単なタスクをするだけで報酬が得られる」と誘う“副業詐欺”が多く見られました。

実際には、

  • 作業ミスを理由に違約金を請求されたり、
  • 高額な教材を購入させられたりするなど、

典型的な詐欺的手口です。

🧓 高齢者の投資被害も深刻

60代以上では、

  • 著名人をかたる広告
  • 「AIが選ぶ確実な投資」といった文句

により、詐欺的な投資商品への出資被害が目立っています。

認知症のある高齢者がターゲットになることも多く、発見や救済が遅れることが社会課題となっています。

💸 見逃せない被害総額──9兆円

白書によれば、2024年の推定被害額は約9兆円
これは2020年の約3.6兆円と比較して、わずか4年で2.5倍に膨れ上がったことになります。

被害は、金融・保険分野を中心に、一件あたりの被害額が大きくなっている点が特に注目されます。

⚖ 法的視点からの補足

1|民法(詐欺取消)

民法96条により、詐欺により契約を締結させられた場合には、その意思表示を取り消すことができます。

📌 実務上の留意点:

  • SNSでは契約成立が不明確な場合も多い
  • 相手方が不明で、意思表示が困難なケースも
  • 契約成立時点や手段の証明が争点になる

2|消費者契約法

不実告知・不利益事実の不告知・困惑行為などにより、契約が成立した場合には契約の取消しが可能です。

📌 活用場面:

  • 「必ずもうかる」といった虚偽の文言
  • 「○日以内に申し込めば無料」といった誤認誘導
  • 電話・チャット等での強引な勧誘

※ただし、適用対象は「事業者」と「消費者」の間の契約に限られ、個人間取引や実態不明なケースには及ばないこともあります。


3|特定商取引法

高齢者を狙った訪問販売や電話勧誘販売に対して強い武器となる法律です。

📌 主な保護内容:

  • 書面交付義務
  • クーリング・オフ制度(原則8日以内)
  • 不実告知・威迫の禁止
  • 再勧誘の禁止

特商法違反には行政処分(業務停止命令など)も可能で、国や自治体が対応する道もあります。

4|刑法上の詐欺罪(刑法246条)

「実体のない投資会社」「著名人を装ったSNSアカウント」など、
明確な詐欺行為に該当すれば、刑事告訴・捜査対象となる場合もあります。

5|高齢者保護と成年後見制度

判断能力が不十分な高齢者に対して、家庭裁判所が成年後見人を選任できます。

📌 保護できる内容:

  • 不利益契約の防止
  • 契約の取消し
  • 資産管理・被害再発の防止

📌 課題点:

  • 家族の申立てが必要
  • 契約締結後のリカバリーには限界がある

🛡 認知症高齢者の「見守り」がカギ

高齢者関連の相談は9,000件超(2024年)、そのうち3割が訪問販売

消費者庁は「見えにくい被害」への対応として、
地域や福祉関係者による見守りの強化を推奨しています。

📝 弁護士の視点

SNSの進化は便利さと同時に新たなリスクも伴います。
「誰でも簡単に稼げる」「今すぐ高収入」といった誘い文句の裏に、
詐欺的手口が隠れている可能性は高いと考えるべきです。

💡 被害に遭わないための心得:

  • 「おかしい」と思ったら、ひとりで抱え込まず専門家に相談すること
  • 情報の真偽を見極める習慣を身につけること

「知っていれば、防げたかもしれない」。
そんな後悔をしないために
どうか、この記事がその一助となりますように。

被害に遭ってしまった方、ご家族の方へ
当事務所でも、SNS詐欺や投資トラブルに関するご相談を広くお受けしています。
どうぞお気軽にご連絡ください。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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