法改正トピック|2020年民法改正(令和2年4月1日施行)

😱 離婚成立から半年後の「青天の霹靂」

「やっと離婚できて、せいせいした」 そう思っていた槇村さん(仮名・50代)の元に、税務署から一通の通知が届きました。 開封して、彼は目を疑いました。

「譲渡所得税および住民税:計1000万円」

震える手で税理士に電話をすると、冷酷な事実を告げられました。
「槇村さん、財産分与で奥様に渡したあの投資用マンション、買った時よりだいぶ値上がりしてましたよね?
『値上がり益』に対して税金がかかるんですよ」

槇村さんは愕然としました。
 「そんな……。離婚調停の時、調停委員の方にも聞いたんですよ。
『これ渡したら税金かかりますか?』って。
そしたら『お互い税金はかからないはずですよ』という話だったから、合意したんです! 税金がかかると知っていたら、絶対に調停合意なんてしなかった!」

槇村さんは、この財産分与の合意を取消すことはできるのでしょうか?

⚖️ 解説:「タダで渡した」はずが「売った」扱いに? 1000万円課税のカラクリ

なぜ「あげた」のに税金がかかる?

まず、前提にある落とし穴について。
財産分与で不動産を渡す行為は、税務上財産分与した側が、財産分与した時の時価により譲渡があったものとみなして譲渡所得の対象となります(みなし譲渡所得)。

特に投資用物件などで、買った時より値上がりしている場合、その利益に対して税金がかかることがあります。
 (※居住用不動産であれば「3000万円特別控除」などが使える場合も多いですが、投資用だと逃げ道が狭くなります)

「税金がかからない」と信じていた!(動機の錯誤)

ここで問題になるのが、改正民法95条の「錯誤(さくご)」です。
槇村さんは「税金がかからない」という動機に基づいて合意しました。
しかし、現実は違いました。

これを「動機の錯誤」と言います。 改正民法において、契約を取り消すためのハードルは以下の2点です。

  1. その誤解がなかったら、合意しなかったほど重要であること(重要性)
     → 1000万円もの税金がかかるなら、合意しなかったでしょう。ここは認められる可能性が高いです。
  2. その動機(事情)が、相手に表示されていたこと(表示)
    → ここが最大のポイントです。

改正民法95条2項
前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

槇村さんの場合、調停の場で「税金はかからないか?」と質問し、それを前提(基礎)として合意しており、動機が表示されていたようにも思えます。
しかし、 ここで、離婚調停特有の「別席調停(交互面接)」の罠が立ちはだかります。
調停は、夫と妻が別々の部屋に入り、調停委員と交互に話すスタイルが一般的です。

もし、槇村さんが調停委員に「税金かかりませんよね?」と聞き、委員が「たぶん大丈夫」と答え、その話が元妻の部屋で共有されていなかったとしたら?

  • 夫: 「税金なしが前提だ!」
  • 妻: 「そんな話、聞いてない。私はただマンションをもらう合意をしただけ」

こうなると、「動機の表示」がなかったと判断され、取消しが認められない可能性が高まります。
「調停委員に言ったから、相手にも伝わっているはず」という思い込みは、法的には通用しないことがあるのです。
(※ただし、最終的な合意の読み上げの場や、調停条項の文言として残っていれば、表示があったと認められる可能性は残ります)

⚠️ 注意点:スピード勝負! 元妻が売ってしまったら?

仮に、錯誤取消が認められるケースだとしても、安心してはいけません。
もし、槇村さんが迷っている間に、元妻がそのマンションを事情を知らない第三者に売却してしまったらどうなるでしょう?

改正民法95条4項(第三者保護)
意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

何も知らない第三者がマンションを買ってしまった場合、槇村さんは「あの合意はナシだ! マンションを返せ!」とは言えなくなります。
錯誤取消しは、時間との戦いでもあるのです。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

「伝言ゲーム」の怖さを知ってください

離婚調停は、当事者が顔を合わせずに済むメリットがありますが、一方で「こちらの意図が正確に相手に伝わっていない」というリスク(伝言ゲームの弊害)も抱えています。

特に「税金」のような重要事項は、調停委員との雑談レベルで済ませてはいけません。
「もし税金がかかるなら、この合意はしない」 その条件を、相手方にも明確に伝わる形で、調停条項(書面)に残してもらう必要があります。

「調停委員がうんと言ったから安心」ではなく、「それが相手に伝わり、書面に残ったか」まで確認する必要があります。

離婚は、過去を清算し、新しい人生を歩むための手続きです。
それなのに、ときどき、思いもよらない形で「後から続き」が始まってしまうことがあります。
税金の話は、その典型かもしれません。

そうならないためにも、不動産が絡む財産分与は、ハンコを押す前に一度立ち止まって、専門家の目を通すことをお勧めします。
 「終わらせるための手続き」を、本当に終わらせるために。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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