
❓「法定養育費をめぐる、母の願い」
幼い子を抱え、必死に逃げるように始めた別居生活。
暴力にさらされ続けた日々から解放されたものの、生活は厳しく、家計はいつも綱渡りだった。そんなある日、テレビの報道が耳に届いた。
「離婚後、養育費の取り決めがなくても、養育費を請求できる法定養育費制度について、法務省は、子ども一人につき月額2万円とする省令案を公表しました――」
「2万円でもあれば、少しは楽になるのに…」
わずかな額にすがるような思いで、彼女は弁護士のもとを訪れた。
しかし、弁護士は静かに首を振った。
「残念ですが、法定養育費制度はまだ施行されていません。それに、あなたのように改正法施行前に離婚したケースには適用されません。あなたの場合には適用できないんです。」
その言葉に、胸がずしりと重く沈んだ。
せっかく光が差し込んだと思ったのに――また暗闇に引き戻されたようで、悔しさと悲しさで涙がにじむ。
けれど、弁護士は力強く言葉を続けた。
「だからといって諦める必要はありません。あなたとお子さんに必要な養育費をきちんと求める手段はあります。すぐに手続きを進めましょう。私はあなたを守ります。」
彼女はうつむいたまま、小さくうなずいた。
その瞬間、絶望の中にわずかな希望が灯った。
📘 「法定養育費」とは、あくまで「暫定的・補充的」なもの
「子ども1人当たり月額2万円の法定養育費」という法務省の省令案に、SNSなどでは「安すぎる」という声が相次いでいます。
なぜこの金額なのか、そしてそもそも「法定養育費」とはどんな制度なのか。改正民法のポイントを解説します。
これまで、離婚した夫婦が養育費の取り決めをしていなかった場合、子どもを育てている親は相手と養育費支払いの合意をするまで、養育費を請求できませんでした。
今回の改正民法で新設された「法定養育費」制度は、こうした事前の取り決めがなくても、一定額を請求できる仕組みです。
しかし、この制度は、あくまで養育費の取り決めがされるまでの「暫定的・補充的」なセーフティネットと位置付けられています。子どもを健やかに育てるためには、各自の収入などを踏まえた適正な額を父母の協議や家庭裁判所の手続きで決めることが重要だと、法務省は説明しています。
🔍 なぜ「2万円」なのか?
月2万円という金額について、法務省は「ネーミングによる誤解もある」と説明しています。
この金額は、個人の支払い能力とは関係なく、誰もが一律で支払える額として検討されたものです。
高い金額を設定すると、支払い能力がないケースで未払いが発生する可能性があるため、「払える額」と「生活に必要な額」 の観点から議論された結果とみられています。
法務省は、一律の金額にすることで、弁護士などに頼らずとも簡単に請求できるなど、手続きの負担を減らすメリットがあるとしています。
💰 支払いが滞った場合の対策も強化
改正法では、法定養育費が支払われない場合に備え、財産を差し押さえて弁済を受けることができる仕組みも整えられます。
養育費債権に「先取特権」という優先権が付与されるため、養育費の取り決めの際に作成した文書があれば、公正証書などがなくても差し押さえの手続きを申し立てることが可能になります。
この差押えで優先的に弁済を受けられる上限額は、子ども1人当たり月額8万円とする省令案もまとまっています。
🧩 まとめ:改正のポイント
- 共同親権の導入:離婚後も父母双方が親権者となる「共同親権」の選択肢が加わりました。
- 法定養育費の新設:養育費の取り決めがない場合でも、子ども1人当たり月額2万円の「法定養育費」を請求できるようになります。
- 強制執行の円滑化:養育費の取り決めの実効性を高めるため、相手の財産を差し押さえやすくなりました。
これらの制度は、2026年5月までに施行される予定 です。
今回の改正は、親権の有無にかかわらず、父母が子どもの養育に責任を果たすことを明確にすることを目的としています。
🧭 Q&A
- いつから発生する?
法定養育費は離婚の日から発生します。 - いつまで支払う?
養育費の取り決めをするか、家庭裁判所の審判が確定するか、子どもが18歳に達するまでのいずれか早い日までとなります。 - 今回の改正前に離婚した場合は?
法定養育費の規定は、改正法施行後に離婚したケースのみに適用されます。
今回の省令案は9月上旬からパブリックコメント(意見公募)が実施される予定です。
今後、どのような意見が寄せられ、最終的な制度がどうなるか注目されます。
✍️ 終わりに
「2万円」という数字が、子どもを守るセーフティネットになるのか、それとも現実離れした基準として批判を浴び続けるのか。
この制度の行方は、子どもと家庭の未来をどう描くのか――社会全体に問いかけています。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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