📅 判例・法改正トピック|2020年民法改正(令和2年4月1日施行)

🚗 「同じ事故でも賠償金が変わる」時代に

同じような後遺障害なのに、以前より賠償金が多いのはなぜか?

その理由は――「中間利息控除」の法定利率が変わったからです。

2020年(令和2年)の改正民法により、
これまで「5%」だった法定利率が「3%」に引き下げられ、
将来の逸失利益などを計算する際の“割引率”が小さくなったのです。

その結果、
同じ後遺障害でも、被害者が受け取る賠償金が数十万〜数百万円単位で増額
するケースが出ています。

💡 中間利息控除とは?──未来のお金を「今もらう」ための調整

中間利息控除とは、簡単にいえばこういうことです。

将来もらえるはずのお金を、今まとめて受け取るなら、
将来までの「利息分(運用益)」をあらかじめ差し引いておきましょう。

たとえば、交通事故で労働能力を失った被害者が、
「将来の収入を失った」として損害賠償を受け取る場合、
実際には これから10年、20年にわたって失う収入を、今一括でもらう ことになります。

お金には利息(運用による増加)がつくとされているため、
本来なら「将来の金額」よりも「今の金額」は少なくてよい。
この“割引”の考え方が中間利息控除です。

⚖️ 改正民法417条の2が明文化した「中間利息控除」

旧民法時代は、明確な条文がありませんでしたが、
判例実務では「法定利率5%」を基準に控除していました。

しかし、超低金利が続く中で、
「5%の割引は現実に合わない」との批判が強まり、
改正民法で以下のように明文化されました。

民法417条の2(中間利息の控除)
将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、
その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、
その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。

さらに、不法行為(交通事故など)の損害賠償にも準用されます(民法722条1項)。

📉 「5%→3%」で、逸失利益はいくら変わるのか?

例:年間100万円の逸失利益が5年間続く場合

以下の表は、年収100万円分の逸失利益が将来にわたって発生する場合の、旧法と新法の差額を示したものです。

期間(年)旧法(5%控除)の現在価値改正民法(3%控除)の現在価値受取額の差額(増額分)
5年分約433万円約458万円+25万円
10年分約772万円約853万円+81万円
20年分約1,246万円約1,488万円+242万円

逸失利益の請求期間が長くなる(特に若年層や重度の後遺障害がある場合)ほど、この差額は数百万円にも膨らむ可能性があります。

🧮 どんな場面で問題になるのか?

中間利息控除は、次のようなケースで重要です。

  • 交通事故で後遺障害を負った場合の逸失利益の計算
  • 労災や安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求
  • 医療過誤・学校事故などの損害賠償請求

これらはいずれも、将来の収入・費用を現在の金額に直す必要があるため、
中間利息控除が必ず関わります。

📅 適用時期に注意 ― 令和2年4月1日以降の事故から

附則第17条2項で、次のように定められています。

「施行日前に生じた将来の利益や費用に関する損害賠償請求権には適用しない」

つまり――
2020年(令和2年)4月1日以降に発生した事故・不法行為が対象です。
それ以前の事故は、旧利率(5%)が適用されます。

🧭 相談時に準備すべきもの

後遺障害の診断書は、治療終了後に弁護士の指示に従って医師に作成依頼するものです。ご自身で用意しなくてもよいものなので、ご安心ください。
以下の資料をご準備いただければ、すぐに損害額の計算と交渉を開始できます。

項目目的
交通事故証明書事故日、当事者、場所の確認
源泉徴収票・確定申告書過去3年分ほど。逸失利益の計算の基礎となる正確な年収の証明
診断書・診療報酬明細書(あれば)傷害の程度と治療の経緯の確認
休業損害証明書(あれば)事故直後の収入状況の確認

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

💬 被害者の立場から見た“正義の回復”

この改正を、私は「被害者にとっての正義の回復」だと考えています。

なぜなら、長年続いた5%という高金利設定は、
現実の金利(0〜1%台)から見て“被害者に不利な割引”を強いていたからです。

改正後の3%は、それでも実際の市場金利より高いものの、ようやく現実に近い数値になりました。

損害賠償は「公平の回復」が目的。
数字のわずかな違いが、人生を左右することもあります。
だからこそ、法定利率は被害者の尊厳を守る「正義の数字」なのです。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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