改正民法で新しくできた「情報提供義務」

❓ 保証人の重み、突然の請求

「先生……どうしたらいいんでしょうか。」
応接室に入るなり、依頼者は椅子に腰を落とし、震える手で一通の書面を差し出した。

封筒から取り出されたのは、分厚い督促状だった。
「友人の保証人になったんですが……債権者から、3年前から返済が止まっていたと言われて。元金に加えて、膨大な遅延損害金まで支払えと……。」

声はかすれ、今にも途切れそうだった。
――まさか、こんなことになるなんて。

頼まれたときは「名前を貸すだけ」と思っていた。親友を助けるつもりで判を押した。
だが今、目の前の数字は、家族の暮らしを一変させるほどの重みを持っていた。
頭の中に、妻と子の顔が次々に浮かぶ。住宅ローン、学費、日々の生活費……。そのすべてが崩れ落ちる未来が見えた

依頼者は深くうつむき、声を絞り出した。
「本当に、全部払わなきゃならないんでしょうか。私は……どうすれば……。」

私は書面を手に取り、落ち着いた声で応じた。
「まず安心してください。改正民法では、保証人に対しても情報提供義務が設けられています。知らされないまま遅延損害金を背負わされることは、本来あってはならないんです。」

依頼者は顔を上げた。
その瞳には、まだ恐怖が宿っていたが、ほんのわずかに光も差し始めていた。


📘 改正民法で定められた3つの情報提供義務

保証人の一番の不安は「知らない間に債務が膨れ上がっていて、ある日突然請求されること」です。

実際、旧民法の時代には、気づいたときには元金以上の遅延損害金が積み重なっていた、というケースもありました。

こうした不安を軽減するため、改正民法では保証人を保護するため、次の3つのルールが導入されました。


💡 履行状況に関する情報提供(民法458条の2)

保証人から請求があれば、債権者は遅滞なく以下の情報を知らせなければなりません。

  • 主たる債務の残高
  • 利息や損害金の有無
  • 支払期日が到来している金額

これにより、保証人は「今どれくらい返済が進んでいるのか」を把握できます。


💡 期限の利益喪失の通知(民法458条の3)

債務者が返済を怠り、一括返済を迫られる状態(期限の利益喪失)になった場合、
債権者は2か月以内に保証人へ通知しなければなりません。

通知がなければ、その期間中の遅延損害金を保証人に請求できなくなります。
これにより「突然多額の遅延損害金を背負うリスク」が抑えられます。


💡 契約締結時の情報提供(民法465条の10)

特に事業用の借入を保証するときは、債務者が保証人に次の情報を説明する義務があります。

  • 財産や収支の状況
  • 他の借入の有無や金額、返済状況
  • 担保の有無や内容

もしこれらが提供されず、または嘘の説明で保証契約を結ばされた場合、
債権者がそれを知っていたなら、保証人は契約を取り消すことができるとされました。


🧭 保証人の権利が強化された

このように、改正民法では保証人が「知らないまま大きな責任を負わされる」ことを防ぐ仕組みが整えられました。

ただし、情報提供義務が守られなかった場合の効果は限定的で、

  • 契約の解除や損害賠償の余地がある
  • 遅延損害金の一部が免除される

といったレベルにとどまります。

それでも、保証人が一方的に不利な立場に置かれることを減らす大きな一歩といえるでしょう。


🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

保証人という立場は、一見「人を助けるための善意」から始まります。
けれど、その善意が法の裏づけなしに進めば、やがて自分と家族を追い詰めることにもなりかねません。

改正民法が導入した「情報提供義務」は、まさに――“知らされないまま責任だけを負う”
という悲劇を防ぐためのものです。

保証人は、債務者や債権者の動きを直接見ることができない、いわば“影の当事者”です。
だからこそ、法が「情報を求める権利」を与えました。

履行状況を知る権利、
期限の利益喪失を知らされる権利、
契約締結時に真実を伝えられる権利。

これらはすべて、保証人を「守られる側」から「判断できる側」に変えるための仕組みです。

もしあなたが、誰かの保証を頼まれたら――
まずは、“信頼の契約”を支える情報を求めてください。
それが、あなた自身を、そして大切な人を守る第一歩になります。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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