🖼️愛犬の無邪気さが招いた代償

青空の下、ドッグランでは犬たちが思い思いに駆け回っていた。
私の愛犬も、その輪の中で楽しげに他の犬を追いかけ、しっぽを振りながら走り回っている。
ベンチに腰を下ろした私は、その光景をほほえましく眺めていた。

――その瞬間だった。
勢い余った愛犬が、近くで自分の犬と遊んでいた人にぶつかってしまったのだ。
「大丈夫ですか!」
慌てて駆け寄ったが、相手は苦痛に顔を歪め、うずくまっている。
胸に広がるのは、驚きと申し訳なさでいっぱいの気持ちだった。

後日、届いたのは多額の損害賠償を求める書面。
読み進めるうちに、背中に冷たい汗が流れた。
――もし、ペット賠償責任特約に入っていたら。
「まさか、自分にこんなことが起こるなんて…」
そう呟きながら、後悔が胸の奥で重くのしかかってきた。

※本記事の冒頭ストーリーは、実際の判例をもとにしたフィクションです。
実在の人物・団体を直接描写するものではなく、当事者の心情に想像を交えて構成しています。

⚖️大阪高等裁判所判決

2025年6月18日、大阪高等裁判所は注目すべき判決を言い渡しました。
舞台は犬の自由な遊び場「ドッグラン」。大型犬に衝突されてケガを負った利用者が飼い主を訴えた裁判で、裁判所は飼い主に対し 1600万円超の賠償責任 を認めたのです。


🚨 事件の概要

  • 事故は2021年、兵庫県内のドッグランで発生。
  • 原告(利用者)は、自分の犬と遊んでいたところ、被告の飼うゴールデンレトリバー(当時11か月・約28kg)が猛烈なスピードで突進し衝突。
  • 原告は転倒し、足首・肩などを負傷。長期の治療を余儀なくされました。
  • 一審(神戸地裁尼崎支部)は「飼い主に過失なし」として請求を棄却しましたが、不服とした原告が控訴。

高裁は一転、飼い主に管理責任を認めました。


📘 法律上のポイント ― 「動物占有者責任」とは?

民法718条1項は、

「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う」

と定めています。
ただし飼い主側が「相当の注意を尽くした」と証明できれば免責されます。

今回の裁判では、この「相当の注意」が大きな争点となりました。

動物占有者責任は、占有者が動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたことを主張・立証すれば、その責任を免れるところ(民法718条1項ただし書)、相当の注意とは、通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常事態に対処し得べき程度の注意義務まで課したものではないと解される(最高裁昭和37年2月1日第一小法廷判決・民集16巻2号143頁参照)。


🔍 裁判所の判断

大阪高裁は次の点を重視しました。

  • 犬は温厚な性格だったが、28kgの大型犬が時速11km以上で走り回る状況は危険性が高い。
  • 飼い主は犬から数メートル離れ、リードも手放して椅子に座っていた。
  • 事故前にも、犬が同じ原告に衝突しそうになった場面があったのに、制止措置をとらなかった。

👉 「遊びに夢中な犬が人に衝突する危険を予見できたのに、リードをつけたり呼び戻したりといった措置を怠った」と認定。
そのため「通常払うべき注意を尽くしていない」と結論づけました。


💰 損害賠償の内容

裁判所が認めた損害は以下の通りです。

  • 治療費・交通費・休業損害
  • 慰謝料
  • 肩の腱板損傷による後遺障害(12級6号)に基づく逸失利益

合計は約2000万円。
ただし「原告にも背後への注意を怠った過失がある」として 2割の過失相殺 を適用し、最終的な賠償額は 1600万4726円 となりました。


💡 この判決から学ぶべきこと

この事件は、犬を愛するすべての飼い主に重要な示唆を与えています。

  • ドッグランでも管理責任は免れない
     犬から目を離さず、呼び戻し・制止できる状態を保つことが必要です。
  • 危険の予見と対策を怠らない
     特に大型犬や活発な犬は、衝突事故のリスクを意識し、必要に応じてリード着用や休憩を挟むなどの配慮が求められます。
  • 万一の備えとして保険加入も検討を
     ペット保険や個人賠償責任保険に加入しておくことで、万が一の賠償リスクを軽減できます。

🧭 まとめ

今回の大阪高裁判決(令和7年6月18日・令和7年(ネ)351号)は、
「ドッグランでも飼い主に注意義務がある」 ことを明確に示しました。

愛犬と安心して楽しい時間を過ごすためには、飼い主一人ひとりが責任を自覚し、周囲への配慮を欠かさないことが大切です。

👉 犬を飼っている方は、この判例を「他人事」とせず、ご自身の管理体制を振り返ってみてはいかがでしょうか。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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