昭和62年最高裁判決が変えた“地獄の縁”の断ち切り方

🍸 5年目の沈黙、届かない署名

「もう、解放してくれないか」
都内のカフェ。不倫の末に家を出て5年になる誠一さん(仮名・45歳)は、目の前に座る妻に頭を下げました。
不倫相手とはすでに別れています。
でも、一度壊れた夫婦関係が元に戻ることはありませんでした。
誠一さんはこの5年、十分な生活費を送り続け、誠心誠意謝罪も重ねてきました。

しかし、妻の返答はいつも同じです。
「あなたが勝手に浮気して、勝手に家を出たんでしょ? 私は絶対に離婚しません。一生、罪を背負って生きていけばいいじゃない。」

妻の言葉は冷たく、誠一さんの胸に突き刺さります。
 (自業自得なのはわかっている。でも、この“冷え切った戸籍”を、死ぬまで維持し続けなければならないのか……?)

⚖️ 昭和62年9月2日:最高裁が認めた「地獄の終わり」

それまでの裁判所は、「不倫をしたような不届き者からの離婚請求なんて、虫が良すぎる」というスタンスでした。 しかし、昭和62年の判決で、最高裁はこう宣言したのです。

「婚姻関係が完全に破綻しているなら、たとえ有責配偶者からの請求であっても、離婚を認めるべき場合がある」

なぜでしょうか? 愛情が消え去り、何年も別居し、修復の余地がない夫婦を無理やり法律で縛り付けておくことは、誰にとっても幸せではない——そう判断したのです。

一 有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦がその年齢および同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない。

二 有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦が36年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。

最大判昭和62年9月2日最高裁判所民事判例集41巻6号1423頁

💡 逆転の鍵となる「3つの条件」

ただし、何でもかんでも認められるわけではありません。裁判所は以下の「3つのメルクマール(指標)」を厳しくチェックします。

相当の長期間の別居

具体的な年数は決まっていませんが、夫婦の年齢や同居期間と比較して「もうやり直せないよね」と思える期間が必要です。最近の実務では、8年~10年程度が目安とされることが多いですが、個別の事情により前後します。

未成熟の子供がいないこと

「親の勝手で子供を路頭に迷わせるな」という視点です。大学生でも、18歳(成人)を超えていても経済的に自立していない場合は、「未成熟子」とみなされる可能性があります。

離婚によって相手が過酷な状況に陥らないこと

「離婚されたら住む家もお金もなくなり、生きていけない」といった、相手側への経済的・精神的な「過酷条項」がないことが条件です。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

「有責だから」と諦める前に、今の状況を“客観的”に整える

「先生、妻が離婚に応じてくれないですが、どうしたら離婚できるのでしょうか?」 相談室で、誠一さんのような悩みを持つ方は少なくありません。

確かに、不倫という「事実」は消えません。
しかし、法は「一生の罰」を与えるためのものではなく、「破綻した現実をどう整理するか」のためにあります。

もしあなたが離婚を望むなら、感情的に「離婚してくれ」と叫ぶのではなく、以下の実績を積み上げることが大切です。

  • 生活費(婚姻費用)を滞りなく送る
    誠実さの証明であり、相手の「過酷な状況」を防ぐことにも繋がります。
  • 別居の実態を作る
    同居したまま「性格が合わない」と言うよりも、別居という「客観的な事実」の方が裁判所には響きます。
  • 相手の生活を保障する提案をする
    財産分与を多めにするなど、相手の将来への不安を解消する具体的な案を提示することです。

「悪いことをしたから一生自由になれない」と思い込む必要はありません。 法律を正しく理解し、一つひとつ誠実に対応していくことで、止まった時計の針を再び動かすことは可能なのです。

🌿 次回のテーマは……

「浮気したけど、一度は許してもらったはず。それでも離婚できないなんて!」 そんな時に登場する言葉 『宥恕(ゆうじょ)』 についてお話しします。 一度の「ごめんね」が、その後の裁判をどう変えるのか。
また次回、この場所でお会いしましょう🌿

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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