令和7年3月25日大阪高等裁判所第14民事部/令和4年(ネ)1675号 損害賠償請求控訴事件

💔『届かなかった婚姻届』
婚姻届を手に、私たちは窓口に並んだ 。
隣にいるパートナーの指が、ほんの少し震えていた。私たちにとって、これは単なる手続きではない。何年も寄り添い、人生を共にしてきた「愛の公的な承認」だった。
役所の窓口で渡されたのは、冷たい「不受理処分」の紙切れ。
理由は、「両者が同性であること」。
その瞬間、世界は急に二色に分かれた気がした。
異性のカップルには開かれている未来への扉が、私たちには閉ざされている。私たちの愛は、この国では法律上の「存在」として認められない 。
「憲法は、法の下の平等を保証しているんじゃないのか」—そう叫びたかった。
私たちは、幸福を追求する権利を持つ、かけがえのない個人 。
その尊厳が、法律の条文によって、静かに否定された。
この冷たい紙切れを手に、私たちは、「国」に対して、なぜ私たちを認めないのか、その理由を問うために、法廷の扉を開く決意をした 。
📌 本記事の冒頭ストーリーは、実際の判例を参考に再構成したフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
📌 事件の概要と二つの争点
本件は、婚姻届を不受理処分とされた同性カップルが、同性婚を認めない民法・戸籍法の規定(本件諸規定)が憲法に違反し、その規定を改廃しない国会の立法不作為が国家賠償法上違法であるとして、国を訴えた訴訟です。
この裁判では、以下の二つの論点が争われました。
| 争点 | 内容 | 裁判所の判断 |
| 憲法適合性 | 同性婚を認めない本件諸規定は、憲法14条(法の下の平等)および24条2項(個人の尊厳)に違反するか 。 | 違憲 。憲法14条1項・24条2項に違反する 。 |
| 立法不作為の違法性 | 国会が同性婚を法制化しないことは、国家賠償法1条1項の適用上、違法となるか 。 | 違法ではない 。賠償請求は棄却された 。 |
憲法適合性:なぜ「違憲」と断じられたのか?
大阪高裁は、同性婚を許容しない本件諸規定について、「性的指向が同性に向く者の個人の尊厳を著しく損なう不合理なもの」であるとし、憲法14条1項(法の下の平等)と憲法24条2項(個人の尊厳)に違反すると判断しました 。
🔒 憲法14条1項(法の下の平等)違反の根拠
- 実質的な区別取扱い: 現行法は、婚姻を性愛を基礎とする人的結合関係と規定しているが、性的指向が同性に向く者は愛するパートナーと婚姻ができないため、性的指向による実質的な区別取扱いにあたる 。
- 合理性の欠如: 婚姻による法的保護を受けることは人格的生存にとって重要であり 、この差異を正当化できる合理的な根拠は見出し難い 。
- 伝統的婚姻観への配慮の限界: 伝統的な婚姻観を有する国民がいても、それが「同性婚を法制化しない合理的理由」にはならない。冷静かつ寛容な態度を国民に期待することは、憲法24条の趣旨に沿う 。
🕊️ 憲法24条2項(個人の尊厳)違反の根拠
- 人格的利益の著しい毀損: 法律婚制度は、人々が幸せを求めて充実した人生を歩むための重要な選択肢であり、同性カップルがこれを享受できないことは、人格的利益を著しく損なう 。
- 生物学的障壁の否定: 法律婚制度は、当初から自然生殖の可能性と一体のものではない 。同性同士であっても、その関係を保護することに生物学的・倫理的な障壁がない限り、可能な限り同等に扱うのが個人の尊厳の要請に適う 。
立法不作為:賠償請求が棄却された理由
裁判所は、本件諸規定が違憲であると認めながらも、国に対する国家賠償請求は棄却しました 。
- 違憲性の明白性の否定: 法律の規定が違憲であることが国会にとって明白であった場合にのみ、立法不作為は国家賠償法上違法となる 。
- 現行の状況: 違憲性を支持する見解が広まったのはここ数年であり 、最高裁による統一的判断がされていないこと 、また、嫡出推定規定など立法に当たって検討すべき課題があることを踏まえると、現時点では国会に違憲性が明白であったとは言えない 。
🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点―
【憲法の勝利】「愛の存在」を認めた司法。残された「立法府の義務」
この大阪高裁の判決は、同性婚を認めない現行法制が憲法に違反すると明確に断じた、人権論における大きな勝利です。
司法は、「性的指向による差別は不合理であり、個人の尊厳を著しく損なう」という現代の倫理観と法哲学を、最高裁に先んじて明確に打ち出しました。
しかし、同時に国家賠償請求を棄却した点は、この問題を「司法が解決する限界」と「立法府に課された最後の責務」を鮮明に分離しています。
🚨 賠償棄却が示す「司法の壁」
司法は、法的な違憲性を指摘することはできても、「国会にいつまでに、どのような法律を作れ」という命令は出しません。賠償請求を認めなかったのは、「違憲性が明白でない段階で、国会議員の立法裁量に介入できない」という抑制的な判断によるものです 。
これは、「違憲という旗は立てた。あとは国会が動け」という、立法府への強いメッセージと受け止めるべきです。
結び:社会が問う「成熟度」
婚姻制度の核心は、「子が生まれる可能性」ではなく、「愛し合う者同士が、公的な承認を得て、相互に助け合い、生涯を共にできる法的安定性」です 。
同性婚の法制化は、もはや国民感情の是非という段階ではなく、「多様性を尊重し、すべての国民の尊厳を守れるか」という、現代社会の成熟度を問う問題です。
最高裁の統一的判断が待たれる中、私たち法律家は、この判決を、「個人の尊厳を基礎として社会秩序を再構築せよ」という、憲法からの強い命令であると受け止め、その実現を求めていく責務があります。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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