⚖️ 冤罪はなぜ繰り返されるのか?大川原化工機事件が突きつけた日本の司法の闇

🚨 拘置所の闇にて
鉄格子の向こうで夜が明けていく。
だが、自分にとって朝も夜も、もう意味はない。
「また……却下でした」
面会室で弁護士が小さく告げた。
声は努めて冷静だったが、その奥に滲む悔しさを自分は感じ取った。
「罪証隠滅のおそれがある、という理由です」
聞いた瞬間、胸の奥で何かが崩れ落ちた。
どんな証拠を隠すというのか。自分は何もしていない。ただ会社の顧問として、まっとうに働いてきただけだ。
胃の奥で鈍い痛みが広がる。診察で「悪性腫瘍」と告げられたとき、現実感は薄かった。だが、輸血の針を刺されるたびに、命が自分の掌からこぼれ落ちていくのを実感する。
弁護士は繰り返し保釈を求めてくれた。だが、検察は耳を貸さず、「逃げる」「隠す」と決めつける。裁判所もまた、書面の一行で却下を繰り返した。
正義を守るはずの人たちが、どうしてこれほどまでに冷たいのか。
「裁判で無実を証明できます」
弁護士は励ましてくれたが、自分にはもう時間がない。病院のベッドで本格的な治療を受けることすら、許されないまま削られていく。
──自分は裁かれるのではなく、国家の論理に“閉じ込められて”死んでいくのだ。
怒りも悲しみも、やがて静かな諦めに変わる。
けれど、最後に残るのは一つの問いだった。
「命よりも制度の建前を優先する社会に、果たして正義はあるのか」
その問いかけだけが、衰弱した胸の奥でなお熱を帯び続けていた。
※本記事の冒頭ストーリーは、実際の事件をもとにしたフィクションです。
実在の人物・団体を直接描写するものではなく、当事者の心情に想像を交えて構成しています。
❓ 罪のない人を死に追いやった事件
2020年3月11日、横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の社長らが、輸出した機械が「生物兵器に転用可能」だとして警視庁公安部に逮捕されました。しかし実際には、その機械は規制対象ではなく、犯罪は存在しませんでした。
それでも社長らは長期にわたる勾留を強いられ、元顧問の相嶋静夫さんは勾留中に胃がんが発症。弁護側は何度も保釈を請求しましたが、検察官は「罪証隠滅のおそれ」を主張し、却下され続けました。その後、勾留執行停止が認められて病院に入院したものの、2021年2月に亡くなるという痛ましい結末を迎えました。社長と元常務も約11カ月もの間身柄を拘束されました。
🔍 検証で明らかになった「組織の病」
2025年8月、警視庁と最高検が相次いで検証結果を公表しました。そこで浮かび上がったのは、日本の司法が抱える根深い問題でした。
- 警察の問題
- 摘発ありきの暴走
輸出規制の解釈について、所管官庁である経済産業省の担当者が疑問を呈していたにもかかわらず、その情報が適切に引き継がれず、捜査が進められました。 - 指揮系統の不全
現場指揮官が「摘発を第一」に考え、捜査にとって不利な情報(消極証拠)に注意を払わず、部長ら幹部への報告が形骸化していました。 - 違法な取調べ
東京高裁判決では、捜査員が元取締役に対し、偽計的な説明で重要な弁解を封じ、犯罪を認めるかのような供述に誘導した取調べは「違法の評価を免れない」と厳しく指弾されました。
- 摘発ありきの暴走
- 検察の問題
- 専門性を無視した判断
前例のない事案であったにもかかわらず、関係法令の解釈について所管官庁に確認することなく起訴しました。 - 不利な証言を切り捨て
複数の従業員が「規制対象ではない」と主張していたにもかかわらず、その信用性を慎重に検討せず、裏付け捜査を行わなかったことが「大きな反省点」とされました。 - 保釈拒否の硬直性
元顧問の胃がんが判明してからも、検察官は「罪証隠滅のおそれ」を理由に保釈に反対し続けました。最高検は、保釈されないまま亡くなったことは「深く反省しなければならない」と述べました。
- 専門性を無視した判断
💡 「期待外れ」と言われた検証結果
警視庁は当時の公安部長ら退職者を含む関係者19人の処分または処分相当を発表し、警視総監が異例の謝罪を行いました。最高検も「検察全体の問題」と捉え、「心よりおわびする」と表明しました。
しかし、被害者側はこれらの対応を「期待外れ」と批判しました。
- 現場の管理官らの処分は軽い
報道によると、処分対象の19人のうち14人が幹部で、事件の大きな問題である「現場の暴走」を検証しきれていないと指摘されています。 - 保釈拒否した検事らは懲戒なし
元顧問の保釈に反対し続けた検事らが処分されなかったことに対し、代理人弁護士は「別の検事でもこの事件は生まれた」という検察側の価値判断だと受け止めました。 - 第三者を入れない「身内調査」
検証が第三者を入れた透明性のある体制で行われなかったことも遺憾とされています。
遺族は「これでは同じことがまた起きる」と強い不信を表明しました。
🧩 浮かび上がる制度の歪み
この事件は、個々の失敗ではなく、日本の司法が抱える構造的な問題を映し出しています。
- 人質司法 … 長期勾留による自白強要
- 取調べ可視化の不足 … 違法尋問を防げず
- 組織の論理が個人を圧殺 … メンツ優先、誤りを正すチェック機能が機能不全
✍️ 事件が私たちに突きつける問い
司法は「冤罪を二度と起こさない」と言い続けながら、犠牲は繰り返されています。
再発防止には、
- 第三者機関による独立検証
- 取調べの全面可視化
- 保釈運用の見直し
が不可欠です。
👉 そして最も大切なのは、市民が司法を監視する視線を持ち続けることです。
大川原化工機事件は、国家権力の暴走が個人の命を奪う現実を突きつけました。
司法が国民に信頼されるためには、この教訓を「他人事」にせず、社会全体で記憶し続けることが必要です。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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