財産開示手続きへの出頭拒絶による書類送検との報道
令和2年10月21日、毎日新聞で、同月20日、神奈川県警が、財産開示手続きで裁判所から命じられた出頭に正当な理由なく応じなかったとして、書類送検し、これが、全国初の検挙!との報道がされました。
財産開示手続きとは
財産開示手続きとは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり,債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し,債務者の財産状況を陳述する手続です。
これだけを聞くと、債権者にとって大変素晴らしい制度のように思えますが、裁判所のホームページでも、「開示義務者が財産開示期日に出頭しなかった場合,財産開示手続は終了します。」とあるとおり、実効性に乏しいものでした。
要は、逃げ得状態でした。
民事執行法改正による申立権者の拡大
この有名無実化していた財産開示手続きについて、実効性を持たせようという趣旨で、令和2年4月1日、改正民事執行法が施行されています。
大きく変更されているのは、申立権者の範囲の拡大です。
旧民事執行法では、申立権者が、確定判決等を有する債権者に限定されており、仮執行宣言付判決,仮執行宣言付支払督促,執行証書(公正証書)などを有する金銭債権の債権者は含まれていませんでした。改正民事執行法では、これらの場合も、申立てができることになりました。
例えば、養育費の支払い請求を、執行認諾文言付きの公正証書で作成することがありますが、改正前は、この公正証書に基づいて財産開示手続きは認められていませんでしたが、現在は、認められています。
罰則の強化
また、旧民事執行法では、財産開示手続きにおいて、開示義務者が、正当な理由なく期日に出頭しなかった場合や、期日における宣誓拒絶、また、陳述の拒絶や虚偽の陳述をした場合に、30万円の過料としていました。
過料というのは、国または地方公共団体が、行政上の軽い禁令を犯した者に科する制裁のための金銭罰であり、刑事罰とは異なります。
よって、前科がつくことはありません。
改正民事執行法では、罰則を強化し、法定刑を6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金としています。
報道に接しての感想
神奈川県警松田警察署、よくやってくれた!というのが正直な感想ですね。
民事執行法が改正されて、早くもこのような動きが出て嬉しい限りです。
実際、養育費の不払いなどで困っている人は多いですからね。
もっとも、刑事罰の強化がされていますが、正直、この程度の刑事罰で、実効性が担保されるかは微妙です。
報道されたものも、書類送検ということで、被疑者は、警察による身体的拘束を受けていないため、どれほど反省しているかも分かりませんし、結果も、おそらく略式起訴、罰金でしょう。
この点は、書類送検でなく逮捕されていれば、一般予防的な効果が発生したものと思います。
逮捕されて、留置される経験って、普通に真面目に働いている人であれば、相当の精神的ショックを受けます。経済的にも、失職する可能性すらあります。
そのため、実際に逮捕された前例があれば、財産開示手続きの実効性もあがるでしょう。
もっとも、安易に逮捕を認めるわけにもいきませんが。
今後、弁護士としても、依頼者に財産開示手続きの説明をし、積極的に、同手続きを利用して、同手続きに非協力的な債務者に対して、告発して同手続きの実効性を高める努力が必要でしょう。
例えば、集団的詐欺被害の被害者複数名が、裁判手続き後、それぞれ財産開示手続きを申立て、出頭拒絶による逮捕、正式な起訴による刑事裁判が行われるといったことが生じるかもしれません。
文書作成者
佐藤 嘉寅
弁護士法人みなとパートナーズ代表
プロフィール
平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通
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