― 業者による重過失と経済的全損の壁を破った交渉術

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🚨 【一瞬の悪夢】もしあなたが夜の高速道路で…

もしあなたが夜の高速道路を走行中、前方に鉄製のハンマーやスコップが突然飛び出してきたら?
避けられない事故のあと、保険会社からは「あなたの過失4割」という理不尽な結論が提示されました。

本記事では、プロの解体業者が荷締めを怠った重過失事故をめぐり、
保険会社の提示「過失4割」「経済的全損」の壁を打ち破り、
過失割合90:10(加害:被害)で修理費満額の9割回収に成功した実務交渉の全貌を解説します。

📍 事故の概要

本件は、令和7年2月某日午後7時20分頃、関東圏内の高速道路で発生した落下物による交通事故です。

項目詳細
発生日時令和7年2月某日 午後7時20分頃(夜間)
発生場所関東圏内の高速道路(追越車線付近)
被害車両トヨタ・ランドクルーザー70
加害者解体業を営む業者
落下物鉄製箱体、石頭ハンマー、大スコップなど金属製重量物
実損額修理費用 588,071円

加害者はプロの解体業者であり、通常の積載・運搬管理がなされていれば落下し得ない大型工具類を散乱させたため、当方は、荷締め義務違反は「重過失」と主張しました。


⚖️ 第1の壁:「過失4割」から「1割」への逆転交渉

💬 相手方の主張と当方の対応

相手方保険会社は、判例タイムズNo.38に基づき、過失割合60:40を前提として交渉を開始。
弁護士介入後、被害者が、「追越車線走行」をしていたことを修正要素に挙げて70:30を提示してきました。

この主張に対し、当方は下記の要素で反論を構築しました。

当方の主張要素根拠となる事実
加害者の重過失プロ業者による荷締め義務の重大違反。重量物が複数散乱。
注意喚起措置の欠如落下後、赤色灯や標示による注意喚起を一切していなかった。
夜間・視界不良夜間事故であり、発見・回避が極めて困難。
回避困難性同一時間帯に複数の被害車両が発生。回避不能が客観的に立証可能。

📚 判例の援用

岡山地裁津山支部 平成4年12月16日判決
高速道路上で加害車両の荷台から鉄製コンテナ(約60kg)が落下した事案。
安全措置を怠ったとして、被害者の過失を10%にとどめると判断。

この判例を援用し、当方は「加害者95:被害者5」を主張。
最終的に90:10(加害:被害)で合意に至りました。

📉第2の壁:「経済的全損」主張を打ち破る

本件被害車両は、希少価値の高いランドクルーザー76
修理費588,071円に対し、保険会社は「時価額33.4万円」「修理費45万円」と主張し、
経済的全損(修理費>時価額)を理由に賠償額を制限しようとしました。
そのうえで、対物超過特約を適用するとして、45万円を損害額として提案しました。

※ 保険会社の時価額の根拠は、レッドブックに被害車両の中古小売価格の掲載がなく、法定償却残存率10%として算出。

🧩 対物超過特約とは?

区分内容
原則対物賠償の上限は「事故直前の時価額」。修理費がそれを超えれば、超過分は支払われない。
特約あり対物超過特約によって、時価額を超える修理費用も一定限度まで補償可能(多くの保険会社では上限50万円)。
実務上の注意時価額算定は「レッドブック」に依拠するが、車種によって掲載がない場合がある。

💡 当方の戦略

  1. 中古車市場データの提出
     保険会社が時価額を33.4万円としたのに対し、実際の市場価格(中古車サイトの販売価格)を提示し、時価算定の不当性を指摘。
  2. 実損額の確定による争点整理
     依頼者が修理を実施し、実損額(588,071円)を確定させることで、「時価額争い」を回避。
  3. 交渉の加速化
     確定損害額を前提に、過失割合90:10を適用した迅速な和解を実現。

結果として、修理費用の9割(529,264円)を回収する解決に至りました。

🐯 弁護士 佐藤嘉寅(とら先生)の視点

― 「重過失」と「実損」で壁を突破する

⚙️ 落下物事故は「重過失」で戦え

落下物事故は「被害者にも回避可能性がある」とされがちですが、
プロ業者の荷締めミスは「単なる過失」ではなく「重過失」として位置づけるべきです。
安全管理義務の程度を“業務水準”として主張すること、また、前記のとおり、相手方の落ち度を、丁寧に指摘することで、過失割合の修正が可能となります。

💰 「経済的全損」を打ち破る鍵は「実損の確定」

保険会社は時価評価を低く見積もり、支払額を抑えようとします。
しかし、実際の修理費を確定し、合理的な証拠を揃えることで、
「時価額の壁」を超える交渉が可能になります。

実務が導く「勝ち筋」

要点内容
過失割合「重過失」「注意喚起措置なし」「夜間回避困難」で被害者過失を1割へ修正。
損害算定「実損の確定」で時価額争いを封じ、経済的全損を回避。
和解結果過失90:10で修理費9割回収。

⚖️ 法律論だけでは勝てない。
実務とは「証拠」「交渉」「粘り」の総合戦です。
この事例が示すのは、事実を掘り起こせば法も動くという弁護士の原点です。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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