知っておきたい「保証意思宣明公正証書」のルール

🧩 公正証書という安心の言葉

「なあ、頼むよ。お前しかいないんだ。」

言葉を口にした瞬間、心臓が早鐘のように鳴った。

久しぶりに再会した親友に、まさかこんなお願いをするなんて。

事業は、今が踏ん張りどころだ。
銀行の融資も、ほとんど条件は整った。
――ただ一つ、保証人が必要だと告げられたとき、真っ先に浮かんだのは彼の顔だった。

大学時代、夢を語り合った夜を思い出す。
あのときと同じように、信じて支えてほしい。

「ちょっとした事業資金なんだ。大きな額じゃない。返済計画もきちんとある。」
私は必死に言葉をつないだ。

彼は黙ってグラスを見つめている。
その沈黙が怖くて、言葉を重ねる。

「大丈夫だ。今は法律も変わったんだ。
保証人になるときは、公正証書を作らなきゃならない。
公証役場で、きちんと説明を受けて、理解しているか確認されるんだ。
曖昧なまま判を押させるなんてことは、もうできない。だから安心してくれ。」

安心して――そう口にしながら、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
彼の視線の先に、妻と子の笑顔が浮かんでいるのがわかる。
友情と責任、その重さを天秤にかけているのだ。

「昔からの仲だろ?困ったときは助け合うって、あの頃も言ってただろ。」
そう言いながら、握った拳に汗がにじんでいた。


📘 改正民法で導入された新ルール

保証人になることは「名前を貸すだけ」では済まされません。事業が失敗すれば、あなた自身が多額の借金を背負う可能性があるのです。

こうしたトラブルを防ぐため、2020年4月の民法改正で 「保証意思宣明公正証書」 の制度が導入されました。

  • 本人が公証役場へ行くことが必須(代理人は不可)
  • 契約内容を理解しているか公証人が確認(借入額や返済できなかった場合の責任など)
  • 公正証書がなければ契約は無効

この仕組みにより、安易に保証契約を結ばされることを防ぎやすくなりました。


❓ 公正証書が不要なケースもある

ただし、次のように事業に深く関わっている人については、公正証書は不要です。

  • 会社の取締役や執行役など経営の中心にいる人
  • 会社の株式を過半数保有している人
  • 個人事業主の共同経営者や、事業に従事する配偶者

つまり、「経営に関わらない第三者」が巻き込まれるのを防ぐルールだと考えると分かりやすいでしょう。


🚨 失敗談のミニケース

ある男性は、長年の友人から頼まれて事業の保証人になりました。
「小さな金額だし、すぐに返せる」と言われ、断りきれなかったのです。

しかし数年後、友人の事業は行き詰まり、数千万円の返済が滞りました。
保証契約には公正証書がなく、男性は「契約は無効では?」と主張しましたが、当時はまだ改正民法の施行前。結局、巨額の借金を背負うことになり、自己破産を余儀なくされました。

👉 このような悲劇を繰り返さないために導入されたのが「保証意思宣明公正証書」の制度です。


💡 読者へのアドバイス

  • 「公正証書があるから安心」とは限らない
     公正証書は「意思確認の証拠」であり、保証人の責任そのものを軽くするものではありません。
  • 断り方の視点を持つ
     「法律で公正証書が必要だから」と説明すれば、断りやすくなります。
  • 専門家に相談を
     公正証書がない保証契約を巡って請求されているなら、まず弁護士へ。

✍️ まとめ

  • 事業性融資の保証人になると、事業の失敗で多額の借金を背負うリスクがある
  • 改正民法により、第三者保証は 「公正証書」が必須
  • 公正証書は「意思確認」であり、保証人の責任が消えるわけではない
  • 不安を感じたら、まずは専門家に相談を

👉 誰かの保証人になるということは、あなた自身と家族の生活を背負う覚悟を伴います。
安易に引き受けず、法律を盾に「断る勇気」を持ちましょう。

そして、この新しいルールのおかげで、少なくとも 「知らないまま巻き込まれる」悲劇は防ぎやすくなった のです。

文書作成者

佐藤 嘉寅

弁護士法人みなとパートナーズ代表

プロフィール

平成16年10月 弁護士登録
平成25年1月 弁護士法人みなとパートナーズを開設
得意分野:企業間のトラブル、債権回収全般、離婚、相続、交通事故、刑事弁護、サクラサイト被害などの消費者問題にも精通

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